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○ |
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宮地 伸一 |
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煙草の害かつて説きしにわが息子一人は従ひ一人は従はず |
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アメリカも日本も人間の愚かさをかくも示すかこの世紀末 |
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○ |
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佐々木 忠郎 |
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あな嬉し吾が誕生日なるこのあした待ち待ちしアララギの盆栽届く |
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二十一世紀のめでたき朝に飾らむよ千代に緑のアララギの鉢 |
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○ |
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吉村 睦人 |
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飛び立ちし雁はしばらく沼の上を旋回しつつ列を組みゆく |
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あまた居し雁飛び立ちし沼の岸におびただしくも寄れる抜け羽 |
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○ |
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三宅 奈緒子 |
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灯の下にコルセット解き寝むとして遠き日の病む夫が顕ちくる |
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痩せし胸にコルセットして夫はげみ望みなき病とつひに知らずき |
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○ |
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小谷 稔 |
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大雲取を越えし安けさ夜もすがら鳴る瀬の音の枕に近く |
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粥餅茶屋地蔵茶屋どの茶屋のことも足早き節は歌に残さず |
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○ |
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雁部 貞夫 |
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ゆくりなく渋谷の街に来り見る映画「カラコルム」四十五年ぶりなり |
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次々と出で来るカラコルムの大氷河われの一生もここにつながる |
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○ |
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新津 澄子 |
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漸くに来し最終バスは客乏しサックス抱く若者と疲れしわれと |
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終バスに濡れて帰れば好き仕事あるを喜べと夫の励ます |
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○ |
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添田 博彬 |
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神に祈ると言ふこともなく育ち来てわがために祈る人に戸惑ふ |
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人の為に夜々祈ると言ひ得るは心したたかに育ちしならむ |
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○ |
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石井 登喜夫 |
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わがために祈らむとしてためらひぬ根本中堂のけふの朝事(あさじ)に |
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高瀬川の流れの上の細き橋ゆれるゆれる一人づつ渡りてゆくに |
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