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今月の秀歌と選評



 (2026年2月) < *印 旧仮名遣い >

大窪 和子(新アララギ選者 HP運営委員)


 
秀作
 


つくし

お母さん今までずっとありがとう僕の名前はなかったけれど
涙してちょっぴり強くなった君さくらはいつかきっと咲くから


評)
受験生の息子と彼を支える母との温かい会話のような連作となった。一首目、一つの学校に受からなかった少年の、母への言葉が「ごめんなさい」でなく「ありがとう」だったのが素晴らしい。そして二首目の下の句、涙ぐんだ息子へのエール、なんという優しい言葉かけだろう。きっとさくらは咲くに違いない。
 


鈴木 英一

早朝の雲一つなき天空は寒波つつぬけ地上は凍てる
畑中の森の鳥居をくぐり行けばどの祠にもお供え餅あり


評)
確かに晴天の早朝は寒い。雲があれば地上は布団を被されたようにすこし寒さが和らぐのだが。下の句の「寒さつつぬけ」がまことに上手い。二首目、畑の中の小さな森、そして小さな神社、幾つかある祠にはそれぞれ供え餅が置かれている。心温まる新年の景である。村人たちの暮しも伝わるようだ。
 


夢子

二十歳下の相棒吾よりも大人の顔して常識を説く
無造作に靴を脱ぎ棄て昼の椅子に居てくれるだけで心休まる


評)
この相棒が作者とどういう関係なのかよく判らないが、それはあまり気にならない。共に暮らしているか、ごく親しい人なのだろう。作者もかなりの高齢者だが、二十歳下の相棒の説教を楽しんで受け入れている様子が伝わる。二首目はその相棒の振舞いをうまく捉えて、作者の喜びが感じられる。
 


紅葉

目覚ましを止めてひと時たったらし省いて省いて朝を始める
待つ列に朝の光の降りそそぐ昨日の頭痛は消えたのだろうか


評)
目覚ましのアラームを止める、やりますよね誰でも。時間が無くなったからいつもの朝の習慣を省く。「省いて省いて」が面白い。でも朝ご飯は省かないようにね。二首目、朝寝坊もそのせい?昨日の頭痛がまた起こらないように出勤途上で心配してゐる歌、切実感があり、共感される。
 


原田 好美

お土産に松山銘菓一六いちろくのタルト渡せばきょとんとされる
キビナゴの丸寿司思えば口の中雪花菜おからの味の甘さ広がる


評)
作者の故郷、松山の銘菓や寿司を詠んだ二首である。タルトといえばヨーロッパの彩りのあるお菓子を想像するが高知のタルト一六は特有。また雪花菜(おから)に包むキビナゴの丸寿司も独特。故郷を愛しそれぞれの名品を偲ぶたのしげな作者の表情が目に浮かぶ。
 


ふで

大寒波いすわる空にありてなおオレンジに燃ゆる大き雲あり
エントランスに光溢れて佇めば立春近き風吹き渡る


評)
早春の雰囲気を詠んだ二首。作者を取り巻く明るい気分が伝わる。未だに寒波はいすわっていても、春を思わせるオレンジ色の雲が空に燃えている。面白い表現だ。二首目もいいが、「立春近き風」はもう少し柔らかく「春の香のせて」などするのも一案。
 


 
寸言

 ロシアがウクライナに侵攻して、早やくも4年の月日が流れたが、まだ戦闘の終る気配は見えない。世は不穏である。そんな中、ミラノ・コルティナのオリンピックが終り、24個のメダルを携えて日本の選手団が帰国した。目出度いことである。
 世界の動きは様々だが、このコーナーでは穏やかな世界が広がっていて好もしい。しかし時には他国の動向に目を向けてそこに生まれる感慨を読み取って歌にしてみるのもよいのではないかと思う。短歌の材料は思いがけないところにあるものだ。 

      大窪 和子 (新アララギ選者 HP運営委員)
 
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