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神無月作品集 地震後の祭り 砂山 信一 本殿に御輿を向けて祝詞上げ神渡しするに我ら額づく 地震に崩れしわが町の祭りに若きらがキリコ担ぎて境内練り行く 境内を練り担ぎ行くキリコの上入道雲が空高く立つ 特設の漁港の舞台に若き二人早船狂言声上げ演ず 若き二人の狂言行ふ漁港にて六艘の船旗立て明かり点く
作品15首 雁部貞夫 俎ー(まないたぐら)の登攀 江戸の世の谷川岳は「俎ー」毛の国の人かく呼びゐたり 「トマの耳」の西へ張り出す岩ぶすま畏れ仰ぎし吾若くして 摺鉢の底よりじわじわ攀ぢ登る岩稜帯を突破するべく わが友の平吉たくみにリードせり猫の如くにその身ひそめて 三点支示は教本通りの登り方足場なければ友の肩借る 岸壁の表土はもろし躊躇(ためら)はば真つ逆様ぞ奈落の底へ このルートはザイル使ふを止めにせむ一蓮托生われら避くべし ひと叢の灌木あれば取りすがり煙草一本分ち喫(す)ひたり 股の下覗けばわれらの黄のテントはるか奈落の底に小さく 万が一堕ちても死ぬとは限るまい脚下に光る滑滝(なめたき)の水 この友と登攀かさねて幾年月命あり「鷹の巣」ルートを登り切りたり 上越の風に吹かれて大休止葉巻(シガリロ)取り出しゆつくりと喫ふ 俎ーの岩尾根たどれば「トマの耳」小さき祠(ほこら)にコニャック献ず 「耳二つ」はまことの谷川岳に有らざりと武田久吉博士の力説むなし 谷川岳の名を失ひしはむしろ幸(さち)「俎ー」のよき名を永遠(とは)に伝へむ
宮崎県の歌人 長き交はり 小池 洋子 夜遅き固定電話は師の訃報「父への文見てお知らせまで」と 穏やかに吾が反抗を諭さるる師に黙しゐき分からぬものかと 年賀状の返礼に師の「ありがたう」が最後かながき交はりなりき 今やれて今やりたきをやるが良し日帰り旅に友を誘はむ 暁の冷気にひととき草取るを吾の一日の務めとしたり
長月作品集 猛暑を生く 宇野 一夫 熱中症警戒アラートの字幕表示テレビ画面に出つづくる夏 体温を超ゆる暑さに外出をなるべく控へよといくたびも聞く 暑くとも行かねばならぬところあり時間を限り日傘差し行く 暑さに克つ体力つけむ土曜の丑の日汗を拭きつつ鰻食ひたり 真昼間の暑さをしのぎ夕べにはひと風呂浴びて西瓜食はむよ
葉月作品集 5首 「憂国の士たれ」 大林 明彦 秘めてゐる色を小出しのあぢさゐの白より紅にうつるやさしさ 朝顔のはなに世の塵なかりけりいのち洗はれ見るがうれしさ 憂国の士たれ武装中立のスイスを目指す国造らなむ 国際法違犯の原爆使用せしアメリカの大罪永遠(とは)に忘れそ 隷属はやめて中立へ向かはんか曙光見るべし忍辱(にんにく)ののち
敦賀半島 15首 横山季由 新幹線の延伸したる敦賀駅に降りたち広きコンコースゆく 原発を受け入れし見返りの延伸か若狭ルートも検討されをり 友ら住む福井県は原発銀座五箇所十五基受け入れてきぬ フクシマや能登思ひつつ敦賀半島原発三所巡りゆくなり 珠洲原発友ら阻止して能登襲ひし地震や津波に事なきを得ぬ 原発七基受け入れて来し敦賀半島五百二十人もの人らが暮らす バイパスもトンネルも原発マネーによるかいづこも便利な道がつきたり 色が浜の村居のなかの本隆寺庭に寂塚(さびづか)芭蕉の句碑立つ 敦賀半島に芭蕉来りてますほの貝拾ひし江戸の世原発はなし ものものしくガードマン立つ検問所の奧処に原発のドームの屋根見ゆ トンネルをくぐれば立石の海女(あま)の村敦賀半島ここに尽きたり 原発より奥なるこの村事あらば船にて避難をする他はなし 半島の森蔭深く稼働せず廃炉となりし「もんじゅ」建つ見ゆ 岬(さき)削り露はにむき出す美浜原発青く澄みたる海の辺に建つ 吾が泳ぎし若狭の海辺の原発より三十キロ圏にふるさとはあり
ウルトラマラソン 5首 和田 操 マラソンの二倍の距離を優に超え限界に挑む三千人もが 着ぐるみや和尚の恰好して走る遊び心か余裕の百キロ レモン水は一番人気ステイションに一息入れて走り出すランナー 声援も色々あれど若者の「ナイスランです」効果のありぬ ステイションにオレンジ切りて君待てど八十二キロつひに現れず
鶴見 輝子 命見つめて (要旨)本誌会員の岡崎氏は今年の二月に惜しくも急逝されたが、その三番目の歌集である。医師として「血の通う医療」を信条に患者と接する傍ら、認知症の父上を介護した。その体験を背景とする作品は深い味わいと独自の温もりを湛える。「リヴィング・ウィル」は「死を前にした患者が延命処置を受けずに死に至ることを予め表明しておく文書」と記してある。極めて今日的な課題を包含するこの歌集を忘れてはならない。また、独身故に絶たれれてしまうDNAへの嘆きと、その父のDNAが作者にもたらすであろう認知症と狭心症への怖れも繰り返し詠われている。アララギの手堅い詠法を土台に、独自の輝きを放つこの歌集を忘れてはならない。 ・救はむと付されし人工呼吸器が安らなる死を妨ぐる現実 ・冠動脈の広がりゆくをイメージしぬニトロは舌下に苦く溶けつつ
「短歌トラベラー!」第39回 、オーストリア(ウイーン)> (文章は省略) イヤリングの輝きが一瞬を捉えつつ真珠の耳飾りの少女いま振り返る (美術史博物館のフェルメールの絵) 夥しき天使の像の溢れつつシュテファン寺院に差し入る光
文月作品集 「再春歌」 関 貴与 若者の歌に「いいね」が二万人新しき世の来る兆しか 寺子屋に読み書きそろばん学ぶやうメモに書きつつスマホを習ふ 「好きでした」言はれても虚し八十歳共に白髪の同級会に 「好きでした」言ひて寄りくるお爺さん十五歳の時は背の高き人 悦びは忘れぬやうに悲しみは捨ててしまはむと日々を詠み継ぐ
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