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○ |
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宮地 伸一 |
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今世紀もあと数カ月その間にも襲はむか世界をゆるがすことの |
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火山灰を到るところに積み上げて人ら忙しき温泉街に来ぬ |
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苫小牧の地下の酒場に東京の子の声を聞くケイタイは良し |
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○ |
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佐々木 忠郎 |
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上の階の花の種こぼれて吾が庭のところどころに日日草咲く |
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窓下に干からびし守宮のむくろあり紙に拾へば未だいとけなき |
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○ |
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三宅 奈緒子 |
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遠く来て八島湿原の花のなか露おぶる白山風露にかがむ |
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霧の蔵王をゆきし若き日を思ふなり今日横岳の濃き霧のなかに |
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○ |
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吉村 睦人 |
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道化師のごとくに今日も振舞へりただに悲しきこころ怺へて |
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賀川豊彦教へ下さりし「最微者」といふ言葉久し振りによみがへり来ぬ |
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○ |
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小谷 稔 |
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家持の若く勤めし兵部省の址は葦生ふ草いきれして |
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しだれ柳垂れてしづかに草に触れ天平の代に返る思ひす |
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○ |
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石井 登喜夫 |
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桂が浜のなぎさの波に鮮明に年わかき父少年のわれ |
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抜き手切りて遠ざかりゆく父の腕ああこの浜にとはのまぼろし |
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○ |
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雁部 貞夫 |
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木の声を聴かむとブナに耳を当つ聞ゆるは吾が胸の鼓動か |
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「忙しい」が口癖となる日々にして生命の泉涸れゆく思ひ |
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○ |
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新津 澄子 |
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キャンパスをめぐりて小さき運河ありライデン大学朝の門閉ざす |
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キャンパスの橋に舫へる白きボート船腹にあざやかに「芸者」と記す |
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○ |
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添田 博彬 |
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暖かき庭に緑増す錦木の日に照る花は葉よりも淡し |
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色煉瓦敷きたる歩道に夕早く屋台は来りて提灯ともせり |
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