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○ |
東京 |
宮地 伸一 |
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値引きする時間となりて呼びかくる声のまじはるなかを見めぐる |
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中落ちのまぐろ買はむと慎重に見比べてをりけふのゆとりに |
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○ |
東京 |
佐々木 忠郎 |
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入れ替へし庭土合はぬかこの冬は雪の小鈴のみどり乏しき |
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三ところにほそほそ萌ゆる雪の小鈴まだ生きてると花の芽を抱く |
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○ |
三鷹 |
三宅 奈緒子 |
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森と湖の青きリトグラフ東山魁夷を掲げわが新しき年 |
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この居間の橙色(とうしょく)にかがやくときありて冬の夕日が富士に落ちゆく |
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○ |
東京 |
吉村 睦人 |
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負荷検査の結果は意外によいといふ久し振りにキュラソーを少し舐めむか |
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ビール一本ピーナッツ一皿注文し妻と一時間ときを費す |
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○ |
奈良 |
小谷 稔 |
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アフガンのいくつかの種族の名を覚え心は晴れずこの年を越す |
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傾きゆく国のならひかアメリカも日本も強引なるトップを支持す |
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○ |
東京 |
石井 登喜夫 |
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アペタイトいまだに残り白百合の花の蕋にも心ゆらぎぬ |
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漠々とせる思ひにて「コーラン」を歳晩の夜の枕辺に置く |
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○ |
東京 |
雁部 貞夫 |
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雪の来し小鹿田(をんた)皿山下り来て日田に酒酌む妻も飲み乾せ |
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日田の酒熱きに体を温めて鮎寿司一尾妻と分け合ふ |
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○ |
福岡 |
添田 博彬 |
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信州より帰り来て無事なるを知らされぬさう言へば息子はニューヨークに住む |
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ビル崩壊告げ来ざりしが炭疽菌に効く抗生剤送れと言ひ来ぬ |
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○ |
さいたま |
倉林 美千子 |
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凍る夜の明けむとしつつ雷の丘の向うに星一つ落つ |
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甘樫の丘は夜明けぞ蝦夷(えみし)入鹿(いるか)人々集へ探湯(くがたち)をせむ |
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○ |
東京 |
實藤 恒子 |
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アフガンの空爆のさ中に聴くオラトリオ「天地創造」は心にぞ沁む |
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ミレナリオの光はモスクのモザイクに似てアフガンの戦場をまた思はしむ |
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