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○ |
東京 |
宮地 伸一 |
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本はもう買ふまいときめて来しものを広辞苑批判の本はすぐに買ふ |
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路地の隅にひたすら冬を耐へしもの野芥子と気づく花咲き出でて |
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○ |
東京 |
佐々木 忠郎 |
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降る雪をリリカルなりと窓に見る船笛ひびく町を恋ひつつ |
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病みしのち友のからだは順調らし歎ける歌の少なきはうれし |
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○ |
三鷹 |
三宅 奈緒子 |
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その恋の苦しかりしもわが知れど人に添ひ安らに過ぎ給ひにき |
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のびのびとプールにあそぶを君詠みき水に光の射し入るさまも |
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○ |
東京 |
吉村 睦人 |
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フロッピーに収録されゆく音のごとかすかなりけりわれの思ひは |
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一枝を折り来て挿せばパソコンを打つかたはらににほふ臘梅 |
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○ |
奈良 |
小谷 稔 |
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寒明けに吾を産みたるうら若き母のいのちのしみじみ恋し |
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筆まめと涙もろき母の血を承けて用なき吾の歌となりしか |
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○ |
東京 |
石井 登喜夫 |
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家を出でてのがれし母をたづねゆく提灯の火の色も忘れず |
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何もかも打ち捨てて吾を看取りくれし母ありてこそ生きてゐる吾ぞ |
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○ |
東京 |
雁部 貞夫 |
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四千メートルのテントに過ごしし十日間或る夜は語りき幼き恋を |
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同じ少女に幼き恋を争ひき坊主頭の高校生にて |
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○ |
福岡 |
添田 博彬 |
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掟ありて岬の沖ををみな往けぬはあるいは労りの心なりしや |
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風唸る岬を下る径に痩せて北狐蹲まる吾を待つごとく |
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○ |
さいたま |
倉林 美千子 |
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繁忙と引き換へにひそかなる充足をわれは得てをり案じ給ふな |
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体力の対応し得るは何時までか混める電車に立ちつつ眠る |
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○ |
東京 |
實藤 恒子 |
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死の予感に渾身を込めて書きたるを思へば徒や疎かならず |
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ゆがみたる月に先立つ土星を追ひジュピターははや昇り来りぬ |
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(以下 H.P担当の編集委員) |
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○ |
四日市 |
大井 力 |
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天に梯子を伸ばすやうなる企てはつつしめと宇宙船爆発の事故 |
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この狭き星に戻るを許されず七人の命燃えて果てたり |
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○ |
小山 |
星野 清 |
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朝の散歩に妻と来て立つ十年前宿りし古きホテルを前に |
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たちまちにここロンドンもうつろふか新しきものつぎつぎに失せて |
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