作品紹介

若手会員の作品抜粋
(平成15年6月号)  < * 新仮名遣>

  大 阪 大木 恵理子

買ひ換へしwindows xpのキー打てばわが指さへも新鮮に見ゆ


  東 京 臼井 慶宜

いかなるも人を殺めるべきならずそを知らざるか知つてをりしか


  埼 玉  松川 秀人 *

坂道を踏みしめながら登りゆけば三千院の大門現わる


  千 葉 渡邉 理紗 *

気配りが足らぬと自分を責める子は常に譲りてドア開けており


  鳥 取 石賀 太

今年こそよく実れよと馬鈴薯のひとつひとつに土被せゆく


  京 都 下野 雅史

水中に珊瑚をかぢるブダイの群れ岩肌つつく音の聞こゆる


  大 阪 浦辺 亮一 *

ここで今踏んばらないと終ってしまう二人と思えど素直になれず


  兵 庫 小泉 政也 *

「あの頃は」などと話を始めてる僕らはもはや子供ではなく


  倉 敷  大前 隆宣 *

雨の雫が頭に無数に落ちてくる職につけない吾を叱るかのごと


  徳 山 磯野 敏恵 *

わさび田の花を動かし流れくる雪どけの水のかすかなる音


  宇都宮 秋山 真也 *

悩みなどありはしないと強がりてドリンクバーのがぶ飲み一人


  岡 崎 高村 淑子 *

線路脇に風に吹かれている草は斜めに立つのが楽なんだろう


(以下 HPアシスタント)

  福 井 青木 道枝

それぞれに国をへだてて育ちゆき青年となりこの日の戦火


  横 浜 大窪 和子

心放ちワルツ踊りて流れゆくドラマのごとき時を楽しむ


  ビデン 尾部 論 *

夜の谷にスイス国軍営舎(カゼルネ)の灯は消えずイラク開戦の夜


  島 田 八木 康子

見上ぐれば蘇りくるフレーズの悲しみは空の青さより来る


選者の歌


  東京 宮地 伸一

読経する声にまじれるをさなごのむづかる声も身に沁みて聞く

わが読みし弔辞を胸の上に乗せ君は臥しをり今のうつつに


  東京 佐々木 忠郎

ひとときに桜の花びら枝をはなれ或るものはひとり天空に舞ふ

地植三本盆栽五鉢わがあららぎくよくよするなと新芽出でたり


  三鷹 三宅 奈緒子

この径は夫の試歩のみち千鳥ヶ渕に来て歩むなり逝きて二十年

人のいのちをかなしみて午後の川わたる春寒々としろく曇りて


  東京 吉村 睦人

摩滅して文字の読めざる墓いくつその中なるか女囚携帯乳児の墓は

イラク兵見てもアメリカ兵見ても北支にて戦死せし兄をわが思ふ


  奈良 小谷 稔

先制の殺戮戦をためらはぬかかる国に守られてゐる日本か

原爆を落しし国といふ先入観消ゆることなく半世紀過ぐ


  東京 石井 登喜夫

単身赴任の吾を危ぶみ送りくれし友の自死には声も出でずき

今すぐに焼き捨つるべきはわが日記迷ひゐる間に死ぬかも知れず


  東京 雁部 貞夫

進み出でてザビエーの御骨拝したり龕(がん)の内なる微かなるもの

君まさば共に来にけむカテドラル「エミリア哀歌」の清しく響く


  福岡 添田 博彬

春一番吹くこともなく花梨ほころび黄砂はわがゐる丘を包みぬ

河の面も海も黄砂に朧にて志賀能古可也は深く沈めり


  さいたま 倉林 美千子

包み持つツタンカーメンの乾く豆彼が呉れしを蒔かざりしかな

少しはにかみ笑みし遺影に胸が迫る通夜も焼香も彼に似合はず


  東京 實藤 恒子

火薬商を継ぎて筑豊の街おこしに努むる弟を新聞は伝ふ

新聞に掲ぐる写真は穏やかに若き面は父に似て来ぬ


(以下 H.P担当の編集委員)

  四日市 大井 力

力頼みの大国にただただ従ひていよいよ使ひ走りの印象の国

わが国が竹槍を用意せしごとく土嚢積み塹壕を掘るか人々


  小山 星野 清

関はりしこの五年を夢のごとく方南町交差点に立ちて思へり

いのち懸けてここに務めし君のことをわれ忘れめや移りゆくとも

先人の歌


  正岡子規

     (五月二十一日朝雨中庭前の松を見て作る)


松の葉の葉毎に結ぶ白露の置きてはこぼれこぼれては置く

緑立つ小松が枝にふる雨の雫こぼれて下草に落つ

青松の横はふ枝にふる雨に露の白玉ぬかぬ葉もなし

もろ繁る松葉の針のとがり葉のとがりし処白玉結ぶ

玉松の松の葉毎に置く露のまねくこぼれて雨ふりしきる

松の葉の葉なみにぬける白露はあこが腕輪の玉にかも似る


     (八首中の六首)


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