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○ |
東京 |
宮地 伸一 |
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読経する声にまじれるをさなごのむづかる声も身に沁みて聞く |
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わが読みし弔辞を胸の上に乗せ君は臥しをり今のうつつに |
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○ |
東京 |
佐々木 忠郎 |
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ひとときに桜の花びら枝をはなれ或るものはひとり天空に舞ふ |
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地植三本盆栽五鉢わがあららぎくよくよするなと新芽出でたり |
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○ |
三鷹 |
三宅 奈緒子 |
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この径は夫の試歩のみち千鳥ヶ渕に来て歩むなり逝きて二十年 |
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人のいのちをかなしみて午後の川わたる春寒々としろく曇りて |
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○ |
東京 |
吉村 睦人 |
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摩滅して文字の読めざる墓いくつその中なるか女囚携帯乳児の墓は |
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イラク兵見てもアメリカ兵見ても北支にて戦死せし兄をわが思ふ |
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○ |
奈良 |
小谷 稔 |
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先制の殺戮戦をためらはぬかかる国に守られてゐる日本か |
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原爆を落しし国といふ先入観消ゆることなく半世紀過ぐ |
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○ |
東京 |
石井 登喜夫 |
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単身赴任の吾を危ぶみ送りくれし友の自死には声も出でずき |
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今すぐに焼き捨つるべきはわが日記迷ひゐる間に死ぬかも知れず |
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○ |
東京 |
雁部 貞夫 |
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進み出でてザビエーの御骨拝したり龕(がん)の内なる微かなるもの |
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君まさば共に来にけむカテドラル「エミリア哀歌」の清しく響く |
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○ |
福岡 |
添田 博彬 |
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春一番吹くこともなく花梨ほころび黄砂はわがゐる丘を包みぬ |
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河の面も海も黄砂に朧にて志賀能古可也は深く沈めり |
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○ |
さいたま |
倉林 美千子 |
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包み持つツタンカーメンの乾く豆彼が呉れしを蒔かざりしかな |
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少しはにかみ笑みし遺影に胸が迫る通夜も焼香も彼に似合はず |
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○ |
東京 |
實藤 恒子 |
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火薬商を継ぎて筑豊の街おこしに努むる弟を新聞は伝ふ |
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新聞に掲ぐる写真は穏やかに若き面は父に似て来ぬ |
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(以下 H.P担当の編集委員) |
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○ |
四日市 |
大井 力 |
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力頼みの大国にただただ従ひていよいよ使ひ走りの印象の国 |
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わが国が竹槍を用意せしごとく土嚢積み塹壕を掘るか人々 |
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○ |
小山 |
星野 清 |
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関はりしこの五年を夢のごとく方南町交差点に立ちて思へり |
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いのち懸けてここに務めし君のことをわれ忘れめや移りゆくとも |
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