|
|
○ |
東京 |
宮地 伸一 |
|
買ひやりし昆虫図鑑をひろげ見るエレベーターに昇り行く間も |
|
片仮名にはみな平仮名のルビがあり今更に知る時の移りを |
|
|
○ |
東京 |
佐々木 忠郎 |
|
透きとほる緑うつくしき蟷螂の子も蟷螂ぞ斧を振るなり |
|
歩けるうちに旅せよと妻に言ひしこと十日の旅と聞きてうろたふ |
|
|
○ |
三鷹 |
三宅 奈緒子 |
|
来たり仰ぐベニバナトチノキ花むらを吹く風あればその風に佇つ |
|
えごの令法の白花今か咲きてゐむ五月の安曇野をわが恋ひやまず |
|
|
○ |
東京 |
吉村 睦人 |
|
いく人の人を殺して来たりしか塗装汚れてもどり来し空母 |
|
島に島重なり合ひてその先になほもあるべき島をわが恋ふ |
|
|
○ |
奈良 |
小谷 稔 |
|
ふるさとの荒れざる頃の水張田の写真に残る五月のひかり |
|
忍冬かの日のごとく咲きゐるやふるさとの五輪塔にからみて |
|
|
○ |
東京 |
石井 登喜夫 |
|
当直医の手には負へずと断られ夜ふけて救急ベッドを探す |
|
駆けめぐる枯野の夢は如何なりしわれは人人人ばかり見る |
|
|
○ |
東京 |
雁部 貞夫 |
|
長き思ひ果さむとして額づきぬポケットに文庫本『相澤正歌集』あり |
|
不可思議な縁と言はめ中学のはるか後輩われが君の解説書けり |
|
|
○ |
福岡 |
添田 博彬 |
|
夜半となり誕生日過ぎしを気づける吾香を焚く父母とありし日恋ひて |
|
白い帽子に白い服白いカメラの警官ら民主主義とはかかるを言ふか |
|
|
○ |
さいたま |
倉林 美千子 |
|
帰り来し庭に咲き盛る立浪草蝶眠る見ゆ月の夜にして |
|
父を看取りて帰りし夜にも咲きてゐき立浪草の花群に立つ |
|
|
○ |
東京 |
實藤 恒子 |
|
踏査して逸早く歌を示しゐしその心意気をわれは褒めたり |
|
月々に親しき友らと歩きゐるとわれに告げたり歌作るため |
|
|
(以下 H.P担当の編集委員) |
|
○ |
四日市 |
大井 力 |
|
おのおのの恙をしのぎ又会はむふるさとに歌を詠める友らよ |
|
鬼の足形といはるる石を辻に置きふるさとの村今も変らず |
|
|
○ |
小山 |
星野 清 |
|
高射砲の硝煙うかぶ東京の空バグダッドをテレビに見れば思ほゆ |
|
夜のラジオの米軍による誤射誤爆確かめむにもテレビは報ぜず |
|