|
|
○ |
東京 |
宮地 伸一 |
|
手摺に頼ることもなくして三階まで一気にあがる力まだあり |
|
快き疲れと言はむこの年の歌会も終る時近づきぬ |
|
|
○ |
東京 |
佐々木 忠郎 |
|
朝に来て夕べまた来る黒揚羽庭の蜜柑の茂る一木に |
|
消えてゆくさだめの花と知りし朝咲ける浜ぼうを写真に撮りぬ |
|
|
○ |
三鷹 |
三宅 奈緒子 |
|
濃き藍の紫陽花のなかま白なる一群落のありてしづけさ |
|
晴るる海面にあふなく二日の旅終へてまた帰りゆく錯雑の日々 |
|
|
○ |
東京 |
吉村 睦人 |
|
残るもの何もなけれどまたも来ぬ旧葛西橋ありしこの岸 |
|
死を予感しまして詠みし歌にして今夜のわれの心に通ふ |
|
|
○ |
奈良 |
小谷 稔 |
|
歯を見せる笑顔のポスター殖えしより政治家も政治の質も落ちたり |
|
閉店の売り尽しセールにいつまでも残れる花の土を購ふ |
|
|
○
|
東京 |
石井 登喜夫 |
|
湯を出でて又湯に入りて脈拍をたしかめながら夜の明けを待つ |
|
わがいのち真幸くあらばかへり来む「信濃の国」の歌を聞くため |
|
|
○ |
東京 |
雁部 貞夫 |
|
酒蔵のコンサート果てし明けの街さまよひ行くかかのギタリスト |
|
薩摩軍砲をすゑたる跡に来てああ近々と御城見下ろす |
|
|
○ |
福岡 |
添田 博彬 |
|
閉院して運び来し机に向かふ時心休まるをこの頃知りぬ |
|
取出されし細胞の歳を引き継ぎてクローン生物は早死(はやじに)するらし |
|
|
○ |
さいたま |
倉林 美千子 |
|
そを恋ひし母の指輪をつけて聞くコンチキチンと近づく鉦を |
|
祇園会(ぎをんゑ)の宵山を見し鉾追ひし心のままに取り残されぬ |
|
|
○ |
東京 |
實藤 恒子 |
|
ゆくりなくわれは気付きぬ前をゆく白き項は君の後ろ手 |
|
天文の講座の日にて図らずも道に会ひしよろこびに相並びゆく |
|
|
(以下 H.P担当の編集委員) |
|
○ |
四日市 |
大井 力 |
|
夜中まで仕事を続けその後を酒に紛らすといふ子危ぶむ |
|
結局は己が子すらを救へずとひそかに思ひ眼を閉ぢぬ |
|
|
○ |
小山 |
星野 清 |
|
谿水の上なる空の明るめばしばしかがやく木々のみどりは |
|
水の流れ跨ぐ倒れ木を見るごとに若ければ越えむわれを思へり |
|