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○ |
東 京 |
宮地 伸一 |
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この秋の寂しさのひとつガラス戸を這ふ守宮にも出会ふことなし |
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舗装路の隙間に生ひて幾たびも刈られし枸杞がまた芽ぶきたり |
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○ |
東 京 |
佐々木 忠郎 |
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夢に見る師走の港町はふるさとか吹雪(ふぶき)戒むる船笛ひびく |
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電飾が彩る赤煉瓦の倉庫群雪ふる幻想は常に幼し |
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○ |
三 鷹 |
三宅 奈緒子 |
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火山灰すくふをわが見し洞爺のまち年へだて夏の湖(うみ)のしづけさ |
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亡き夫のかかはりに夏の北の旅かさねて齢(よはひ)たけたりわれも |
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○ |
東 京 |
吉村 睦人 |
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四十を倍近く生きてなほわれは惑ひにまどふ一つのことを |
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先入主極力排しこの者の言はむところを聴き取らむとす |
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○ |
奈 良 |
小谷 稔 |
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一輪車に落ちしりんごを拾ふ見ゆ今朝ゆく旅の窓にいきなり |
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台風にまたも落果かりんご園の木下に反射シート光れど |
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○
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東 京 |
石井 登喜夫 |
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己のみを思ひて買物してくると青菜無き篭を妻が嘆きぬ |
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買ひて帰れば叱らると思ふ無花果を眺めて長く立ちつくしたり |
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○ |
東 京 |
雁部 貞夫 |
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刻々と現はれ渡る雪の峰地図に大方その名記さず |
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少しづつテント進めて四日目か蒼き氷河の源頭に立つ |
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○ |
福 岡 |
添田 博彬 |
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失職を怖るる人等を思ひ遣らぬは野球のスト権ストに変はらず |
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潰るるべき球団の合併を許さざるぼんぼんを煽る正義の顔して |
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○ |
さいたま |
倉林 美千子 |
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手折りたる露草撓ひわが影の人待つ道にながく伸びたり |
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コルシカ島に疲れ癒すといふ便り子は遠し今の吾の暮しに |
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○ |
東 京 |
實藤 恒子 |
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その大き鋭き眼(まなこ)スタート台に立ちて姿勢を構へし一瞬 |
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悠々と泳ぎて華麗なり期待されしプレッシャーを己がものとして |
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(以下 H.P担当の編集委員) |
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○ |
四日市 |
大井 力 |
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万年雪残れる山の裾に噴く水をふふめり今日のえにしに |
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競技終へし選手の言葉すべてよしわけても「努力は人を裏切らない」 |
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○ |
小 山 |
星野 清 |
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共に学びし古き縁に誘はれ君が住まへるバリに旅発つ |
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空港に着けばガラスの向うより童顔になりし友が迎ふる |
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