作品紹介

若手会員の作品抜粋
(平成18年3月号) < *印 新仮名遣い>  


  京 都 池田 智子 *

編み込みのように交差をくり返す人波これも出会いと別れ
冬至の日毎年必ず思うこと「また明日から夏に向かってゆく」と


  埼 玉 松川 秀人 *

夜祭りの花火の響き我家まで聞こえる今宵空澄みわたる
池袋へと我に紙見せ問いかけし外国人のサポートをせり


  千 葉 渡邉 理紗 *

歩道沿いの躑躅の枝に絡みつく枯葉は強い風を待つごと
蟻地獄で苦しめあたし大人には遠い分だけ強くなりたい


  宇都宮 秋山 真也 *

わが師僧の訃報のありしその後に妹に新しき命宿りしを聞く
師僧逝きて騒ぐ鳥らか夕どきに穏やかならずわれのめぐりは


  川 越 小泉 政也 *

地下道でやるせない今をぶっつけて叫んだ声が跳ね返りくる
凍える夜自転車で小学校へ行ってみた何か一つでも思い出したく


  京 都 下野 雅史

正月の餅を日本人客より頂きて異国の海べに日本を思ふ
フィリピン人らは日本で働きたいと言ふけれど日本はまこと金持ちなりや




(以下 HPアシスタント アイウエオ順)

  福 井 青木 道枝 *

ブラインドの内を照らして差し通る月のひかりにみどりごを抱く
ギター弾く若きらの輪に謳いたる讃美歌は口語のびのびとして


  横 浜 大窪 和子

心より放たむとしてまた思ふ結婚せざるか汝は一生を
見交して微笑むときによぎる思ひ夫よ別れる日は遠くない


  那須塩原 小田 利文

手作りのクリスマスツリー飾られてわが家の居間の少し華やぐ
良く眠る幼よ起きて触れてみよ那須野ケ原に降り積む雪に


  広 島 米安 幸子

山里に一人住みたる母思ふ雪のしまけばなほさら思ふ
携帯を握りまるまり眠る子を写してメールに送りてやりぬ


  島 田 八木 康子

産湯なる言葉も消えゆく一つらし拭はれしのみに嬰児眠る
ジョンレノンの命日とのみ告げて過ぐ十二月八日の朝のニュースは



選者の歌


  東 京 宮地 伸一

八十五歳以上の都内に住める者半数は痴呆と言ふはまことか
老人に事故多しとてこの息子餅を呑み込むまでを見てをり


  東 京 佐々木 忠郎

宰相も大臣(おとど)も幹事長も高く推挙せる刺客ホリエモン逮捕されたり
時を移さず検察庁より小菅(こすげ)に疾駆せり転落の人を乗せし護送車


  三 鷹 三宅 奈緒子

そのヴェールかかげて頬に口づけす明るきライトの下さはやかに
文科より転身し介護の途(みち)に立つ勁き志をその細き身に


  東 京 吉村 睦人

世界十位より世界五位に躍進せりトリノ五輪直前尾崎快君
総理大臣をお手本にして誰も彼も責任を取らぬ国となりたり


  奈 良 小谷 稔

子規の句の終りの二年に「雑煮」なし仰臥して食ふすべなかりしか
雑煮の句子規に絶えしは嚥下する力のあるいは失せたるゆゑか


  東 京 石井 登喜夫

ローカル線は禿山多き峡に入り古き朝鮮に会ふ思ひせり
駅前広場のベンチを占むるホームレス身綺麗なる壮年の男が多し


  東 京 雁部 貞夫

この湖に詠みたまひしかかの一首「迷ふことあり人といふもの」
先生の純にやさしき相聞歌人に知らえぬままなるは惜し


  福 岡 添田 博彬

消費税の増加を最も待ちゐるは野党ならむと思へど言はず
耳もとに先生のみ声甦り心顫(ふる)へて浄書したりき


  さいたま 倉林 美千子

安曇野は日々吹雪くといふ友の家友の畑を深く埋めて
運命の命ずるままと言ふ声に少し休めとくりかへすのみ


  東 京 實藤 恒子

石をかむ赤榕の気根に手触れつつ気力漲る思ひしてゐつ
真珠湾に似しとふ三机の海なぎて潜航艇に訓練せしか



(以下 HP指導の編集委員、インストラクター)

  小 山 星野 清

法王のために半旗を今日も掲ぐホワイトハウスにここ議事堂に
広き原の柵の向うに柵を重ねホワイトハウスは人を遠ざく


  札 幌 内田 弘

哀しみに落ちゆくまでは居酒屋に饒舌のままコップ酒飲む
万巻の書を並べたる古書店に買ひしは一冊の文庫本のみ


先人の歌


斎藤茂吉 「死にたまふ母」より



はるばると薬(くすり)をもちて来(こ)しわれを目守(まも)りたまへりわれは子(こ)なれば
寄り添へる吾を目守(まも)りて言ひたまふ何かいひたまふわれは子なれば
死に近き母に添寝(そひね)のしんしんと遠田(とほだ)のかはづ天(てん)に聞(きこ)ゆる
桑の香の青くただよふ朝明(あさあけ)に堪(た)へがたければ母呼びにけり
のど赤き玄鳥(つばくらめ)ふたつ屋梁(はり)にゐて足乳根(たらちね)の母は死にたまふなり
                     

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