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○ |
東 京 |
宮地 伸一 |
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「おい哺乳類」と幼稚園の子が声かくれば兄は言ひ返す「何だ爬虫類」
この路地の彼岸花の葉も衰へてオリオンはいよよ遠ざかり行く |
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○ |
東 京 |
佐々木 忠郎 |
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五輪出場四回目なる岡崎選手「発展途上」と笑まひつつ答ふ
「真昼」「真夜中」は辞書に見ゆれど「真夜」は無しこれも流行(はやり)と諦むべきか |
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○ |
三 鷹 |
三宅 奈緒子 |
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つくづくと読み返すその歌集なかんづく病む若き日の歌はかなしく
隅田川ゆきかふ舟を吹く風を詠み詠みてひと生(よ)をその川の辺に |
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○ |
東 京 |
吉村 睦人 |
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いつなりし日に照らされてその頬のいたく輝く様も見たりき
八百よろづ千よろづの神の国と言へ神無きこともしばしばにして |
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○ |
奈 良 |
小谷 稔 |
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望遠鏡に捉へしシリウス青白し宇治山の寒の空晴るる今
土星の輪観し残像のくきやかにこの宇治の山に眠らむとする |
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○
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東 京 |
石井 登喜夫 |
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仕事ある青年をけさは残し置きひとりソウルを楽しまむとす
いつまでもウォンの感覚を掴み得ず流るるごとく紙幣消えゆく |
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○ |
東 京 |
雁部 貞夫 |
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煙草の害説く彼の者も毒を吐く己が車は見て見ぬ振りか
この世から姿消せるかトルコ巻きの「ゲルベゾルテ」をいま一度喫ひたし |
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○ |
奈 良 |
添田 博彬 |
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検事なりし伯父には秘めたる退職にて六十五年経て聞く困惑を
浜辺にて咥へしオタリヤを海に放ち習性を学ぶはかの拉致に似る |
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○ |
さいたま |
倉林 美千子 |
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この夜も眠らぬ窓に訪ひて来よ灯点して待つ父母(ちちはは)が居む
受話器置き息づき思ふわがロンは機中か既に日本に着きしか |
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○ |
東 京 |
實藤 恒子 |
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下関のフグの刺身に鰭酒を君とし酌めばもの思(も)ひもなく
不戦の心を言ひて共に盃を交しかはしつつわれも少し酔ひたり |
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(以下 HP指導の編集委員、インストラクター) |
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○ |
小 山 |
星野 清 |
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今日の汝がソプラノ冴えてよくひびく心こもれるピアノにのりて
衰へをかこちつつみな明日在るを前提にしてものを言ひ合ふ |
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○ |
札 幌 |
内田 弘 |
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ビルの中のおでん屋の暖簾が吾を呼ぶ女将の大根味滲む頃か
微笑みの写真ばかりが目立つ壁地下商店街を寒々と行く |
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