作品紹介

若手会員の作品抜粋
(平成18年6月号) < *印 新仮名遣い>  


  京 都 池田 智子 *

スギ花粉憂うつな朝見覚えのある字で埋まったはがきが届く


  宝 塚 湖乃 ほとり *

チケットを取った時から待ち焦がれいよいよライブの幕開かれる


  北海道 小倉 笑子 *

生をうけ二箇月経ちぬ赤児抱き静かに揺らすその母の手つき


  東 京 斉藤 瞳 *

泥濘(ぬかる)んだ田んぼの土を掘り返し手で探り出す泥鰌の滑(ぬめ)り


  東 京 剱村 泰子 *

手袋の中まで冷たさ差し込んでひとりの夜の風は意地悪


  日 高 松川 秀人 *

「まんせいばし」プレート背にして立っている我の心は童心のまま


  千 葉 渡邉 理紗

午前二時に眠りに就きて見る夢はコンビニエンスの経営ばかり


  宇都宮 秋山 真也 *

図書館の本の中から想い霊(だま)押し寄せてくるが手には取らない


  東 京 奥薗 綾子 *

梅咲きてもう春来たよと思えども冷たい色が舞い落ちてくる


  埼 玉 小泉 政也 *

割り込みは困った韓国文化だが自己主張の強いことは立派だ


  京 都 下野 雅史

訓練されしカワウソは一斉に缶を集めゴミ箱はすぐに満杯となる




(以下 HPアシスタント アイウエオ順)

  福 井 青木 道枝 *

「ふるさとは福井の町さ」子は言えり夫にもわれにも無き感覚か
ポケットに手をつっこむ癖みずからに子は戒めて医師となりゆく


  横 浜 大窪 和子

赤き薔薇つるくさ木の実あやつりて花束となす指を見てゐつ
日本の野球が世界に冠たるを声上げ告げたしかのノボ ールに


  那須塩原 小田 利文

ゆづり葉の垂りし葉群のふくらみて足利学校に春の風吹く
箒川のほとりに宿りて若き悩み放ちたりしか青年茂吉は


  島 田 八木 康子

何処まで歩きても地雷を踏むことのなきこの国を尊び思ふ
肝心なことには触れずこの人も古書をひもとく歌をのみ詠む


  東広島 米安 幸子

メダル掛け微笑む静香眠らずに見つめしわれは茶を入れに立つ
己を信じ励まば或はわが夢も成るやと思はす若きメダリスト



選者の歌


  東 京 宮地 伸一

渡来種より少し離れて関東たんぽぽわが路地に咲くひとつ孤独に
孫の誰も見ることなかりし妻と思ひけふもたたずむひとり墓前に


  東 京 佐々木 忠郎

北進する桜前線を追ふ旅の夢も空しく足萎えにけり
萎えし足慮(おもんぱか)りて植ゑし桜五本がつぎつぎ咲き呉るるなり


  三 鷹 三宅 奈緒子

思ひつめて家出でし遠き春の日がいまのわが生(よ)を拓きしおもふ
この年の確定申告を書きあげて一隅にひとり生くるすがしさ


  東 京 吉村 睦人

平和坂といふ坂のあり戦争中爆弾数多落とされしていふ
「母(はは)」の字を「毋(なかれ)」と書ける人多し親不孝者と言ひつつ直す


  奈 良 小谷 稔

去年よりもわが豊かなり故里より移しし蕗に薹のこぞりて
めぐりには貸農園のあまたあれど蕗の花咲く畑は吾のみ


  東 京 石井 登喜夫

誇り高き表情を人々の上に見て今さらに光復のよろこびを知る
年表に「倭乱」とのみある年を追ひ紀元前より目を移しゆく


  東 京 雁部 貞夫

ヒマラヤに果てし友らを偲ぶ会われは辛くも命ひろひて
篠懸(チナール)の樹下に水煙草を喫ふ写真その時のわれ二十八歳


  福 岡 添田 博彬

出で入るを詰問するやと近寄れば出る人にガラス片落下を戒む
箒の手休めし人は高き窓を指差しなほも降るガラス片言ふ


  さいたま 倉林 美千子

訪日を知らせて閔(ミン)先生の電話の声吾に時調(シチヨウ)を講ずるためと
閔先生の日本語に聞く古時調の歴史は何と新羅にさかのぼる


  東 京 實藤 恒子

かすかなる己が仕事と思へども待つ人々のありて出でゆく
幼らに交じりて吹けるシャボン玉良寛の無心にわが遠くして



(以下 HP指導の編集委員、インストラクター)

  小 山 星野 清

歩調とりて村を歩める生徒らは行進コンクール練習中とぞ
日本軍の分列行進をみなもとに行進コンクールを今に伝ふるか


  札 幌 内田 弘

太陽を負ひて近づく妻の顔怒つてゐるのか笑つてゐるのか
軒下に寄せ置く自転車に雪被り閉店となれば酔ひて押しゆく



先人の歌


「六月の歌」から5首



ゆづる葉の若葉ととのひ吹く風にはつはつ匂ふ梗(くき)の紅(くれなゐ)
縁側に古りたる蓙を裏がへし青きもうれし夏よ来れよ
紀の国のたもと百合四本(しほん)茎ながに莟(ふふ)みて清(すが)し吾が狭き庭
南京(なんきん)の土産(つと)の菜種ぞ青茎の体菜(たいさい)しげり六月(ろくぐわつ)に入る
若葉する山に残らむ雪に恋ひゆく白雲(しらくも)に恋ひつつぞ居る


土屋文明『少安集』(大橋さんの「ゆずり葉」に触発されここに抽きました。)
                     

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