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○ |
東 京 |
宮地 伸一 |
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新婚の旅に来て見しこの歌碑をけふひとり仰ぐ五十年ぶりに
山荘は遠く上山(かみのやま)に移されて跡示す石に触るるも寂し
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○ |
東 京 |
佐々木 忠郎 |
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トラピスチヌの丘に掘りしより六十年鈴蘭ふえてよく香るなり
従弟(いとこ)の妻ペニー訪ひきぬ十二年ぶり吾を詩人(ポエット)のお兄さんと呼ぶ
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○ |
三 鷹 |
三宅 奈緒子 |
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うみの母を知らずおのが子を生(な)さずかにかくひと生終ふるか吾は
立ち直り立ち直りつつやうやくに今あり今の心たもたむ
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○ |
東 京 |
吉村 睦人 |
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われとともに六十年経しこの鯉らそのいく匹かは一メートルを越す
濾過器より池に落つる水の音ひととき聞きて今夜も眠る
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○ |
奈 良 |
小谷 稔 |
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滝壺の水をくぐりしくれなゐの椿の花は花弁くづさず
ひさびさの明日香の奥は春たけて紫華曼(けまん)黄華曼のとき
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○
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東 京 |
石井 登喜夫 |
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臨津江の向うには人工の無人都市の影なほ遠き国原は緑を持たず
シアトルの韓国人酒場の弾き語り侘しかりき夜々の「カスバの女」
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○ |
東 京 |
雁部 貞夫 |
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若者を支援するフランスのデモ幾十万いまだ「連帯」はかくも息づく
憲法九条すてて「愛国心」を強ひる国かかる事態にも人は怒らず
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○ |
福 岡 |
添田 博彬 |
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八重洲近くなりて探すにわがソフト被りし記憶のみありて茫々
相模灘見ゆるかと登る崖の路に思ひしより高く凪ぐ青き海
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○ |
さいたま |
倉林 美千子 |
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汗に覚め着替へてはまた昏々と眠りに堕つる昼も夜もなく
旗持ちて駅に待たむと書きてあり熱続く身の癒ゆる日あれな
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○ |
東 京 |
實藤 恒子 |
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迫り来る命を詠みて書き記し歩みて救急車に乗りまししとぞ(悼 北澤敏郎様)
見舞ひたる歌の友らを励まして次ぐ日の朝に身罷りましき
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(以下 HP指導の編集委員、インストラクター) |
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○ |
小 山 |
星野 清 |
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君が庭にケチャの合唱しづまれば四囲の闇より虫の声沸く
君が屋敷の椰子の葉叢にかかる靄親しみて見きあしたあしたに
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○ |
札 幌 |
内田 弘 |
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はみだして歩く児童に声を掛け笛吹きゆくは妻ではないか
水の中に切りゆく豆腐の危ふさに今日の心を重ねてゐたり
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