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○ |
東 京 |
宮地 伸一 |
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九十年草木も生えじとふ暗号文解きしはかの年八月七日か
今年もまた原爆ドームの前に思ふ新型爆弾と初めは言ひき |
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○ |
東 京 |
佐々木 忠郎 |
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新アララギに汝が歌三首載りしより四年四か月休むなかりき
「義父」「姑」遣(つか)ふを厭ひしやさしき汝歌には「父」また「母」とあるなり (長男の妻智恵子急逝) |
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○ |
三 鷹 |
三宅 奈緒子 |
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人われらのいのちもろきを年々に知りて今年の若葉目に沁む
おのが病の重きを言ひ別れの言葉を言ふ思はぬ夜の電話に人は |
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○ |
東 京 |
吉村 睦人 |
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飲みにくきを飲ませたまひし母を思ふ道端にどくだみの茂るを見れば
年々に見つつ来たりて今年またさびしと思ふどくだみの花 |
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○ |
奈 良 |
小谷 稔 |
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楝の花はここに限るとひとり決めわが恋ひて来し明日香祝戸(いはひど)
請安の墓への道は今朝あたり草刈られしか匂ひ残れり |
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○
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東 京 |
石井 登喜夫 |
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この年の木々の芽吹きに逢ひ得たり時いまだ尚われを許すか
五月二十日綿入れを脱ぎ手を振りぬ足振りぬ若葉かがやく下に |
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○ |
東 京 |
雁部 貞夫 |
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生ける海老生けるがままに今宵食む十尾二十尾飽き足らふまで
大陸よりの黄砂に霧らふ瀬戸の海真向ふ今治の街の灯かくす |
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○ |
福 岡 |
添田 博彬 |
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雑然と内外胸膜癒着すれば肺野に読み難き影数多あり
灼かれたる缶の蓋摘みて熱かりしに目覚めぬ何の錯覚なりしや |
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○ |
さいたま |
倉林 美千子 |
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五十年経て夫と来し柿蔭山房不二子亡く胡桃の若葉萌えたつ
氷魚(ひを)を捕へ笊に洗ひし営みも過ぎて夕べの湖光る見ゆ |
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○ |
東 京 |
實藤 恒子 |
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その業余に花の写真を競ひつつわが故里に弟ふたり
弟を背負ひて守りせし感覚のよみがへるかも十歳(ととせ)違へば |
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(以下 HP指導の編集委員、インストラクター) |
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○ |
四日市 |
大井 力 |
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いまはしき赤ちやんポストといふ言葉辞書に記されむ時代も来るか
父親がかくれんぼせむと言ひ含め三歳の児を遺棄せしかの函 |
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○ |
小 山 |
星野 清 |
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疾く癒えよ癒えて帰らばシューベルトわれが歌はむ君がピアノに
メトロポリタンオペラハウスのかのトスカ共に観て幾たびか語りしものを |
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○ |
札 幌 |
内田 弘 |
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街灯の下(もと)にメールを送りつつ互ひに待ちゐる場所に近付く
空瓶のラベル誇示して並べたる居酒屋の一画が最も楽し |
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○ |
取 手 |
小口 勝次(HPアドバイザー) |
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蝮草を見て思ひ出づ「まむし」なる社会科教師のかの温顔を
先生の日直の部屋に寄り合ひて語りし友らの面輪なつかし |
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