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○ |
東 京 |
宮地 伸一 |
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けふもまた安定所より帰り来て息子は何も告げむとはせず
蠅は見たと子らは言へどもあはれなり蛇とかげなど知ることもなく |
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○ |
東 京 |
佐々木 忠郎 |
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葉桜となり切るまでの幾日か花びらは散るひらーりひらひら 同年生まれの君の選歌に学ばむと集Iの初校校正に十年(ととせ)励みき |
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○ |
三 鷹 |
三宅 奈緒子 |
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愛(め)で給ひし槻の林見む芽ぶくを見むこほしき堤町通りめぐりて
みちのくより出づるなく全(また)けく終へ給ひし君かと夕暮るるみ墓べのまへ |
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○ |
東 京 |
吉村 睦人 |
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母の教へるフルートの音聞きながら一人ベッドに臥しをらむ汝は
漢字は易しい方がいいんだよと常言ひましし土屋先生 |
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○ |
奈 良 |
小谷 稔 |
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つひに稲をやめたる兄か雪なくて乏しき春の水を憂へず
久々に吾の眠らむふるさとは蛙の鳴かぬおぞましき夜ぞ |
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○
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東 京 |
石井 登喜夫 |
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朝鮮人参を食ひたる夜のあたたかさ少年のごとき夢もみるなり
伊予の煮干しと十三湊(とさみなと)の蜆よく合ひて熱き汁吸ふ夕べゆふべに |
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○ |
東 京 |
雁部 貞夫 |
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「黒龍」を焼酎と書きしは吾がミステーク皇太子ご愛飲とぞ友知らせ来る
歌会果て酒酌み語るも十年目今宵は福井の「黒龍」手にす |
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○ |
奈 良 |
添田 博彬 |
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切なしとはかかる思ひか父逝きて売りたる家の前に動けず
点滴止め十日過ぎ全身の筋肉が痛むいはれは問へども聞かれず |
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○ |
さいたま |
倉林 美千子 |
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象山(さきやま)はかの辺りかと佇むに短く鳴きて鳥渡りゆく
宮滝の瀬はただ眩し橋に立つ吾もさながら茜に染(し)みぬ |
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○ |
東 京 |
實藤 恒子 |
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天竜川のかの岸に赤彦のやどりしといへどその宿のあとかたもなし
この峡の湯室にひとり聴きてゐる天竜川を打つ雨のおと |
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(以下 HP指導の編集委員、インストラクター) |
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○ |
四日市 |
大井 力 |
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一晩の風に砂丘の相(すがた)変りまたいま生るる朝の風紋
光太郎の詩碑にひとり向ひます右肩すこし落す先生 |
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○ |
小 山 |
星野 清 |
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収入の増えざれば消費増ゆるなしこんな理屈も判らぬか面々
別れ際に何言ひたかりしかタオル引き寄せ顔を覆ひてただ嗚咽せし |
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○ |
札 幌 |
内田 弘 |
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書架退けし壁の空白残りつつわれの巡りに空気の透明
わが指紋グラスに残り光る卓冷たき酒をまた注ぎ足しぬ |
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○ |
取 手 |
小口 勝次(HPアドバイザー) |
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蕨真の植ゑし木あらむ踏みし土あらむ一家の広き墓所をめぐる
元冶元年筑波山に天狗党蜂起せりきその地近くに縁ありて住む |
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