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○ |
東 京 |
宮地 伸一 |
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夜半に出されひとりこの鐘をつき鳴らしし試胆会の恐さ今も忘れず
「わしを追ひ出した信州などに行くもんか」歌会に出でざりし土屋先生の言葉 |
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○ |
東 京 |
佐々木 忠郎 |
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部屋に籠り怠けてゐるにあらねども雑然たり書物と新聞切り抜きの山
手を合はす今朝も目が覚め生きてゐる妻よ厄介だらうが宜しく頼む |
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○ |
三 鷹 |
三宅 奈緒子 |
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リズムうつくしと今にして思ふ君がみ歌心入れて読むこともせざりき
「一人のみ残れる友」と妻ぎみを詠み給ひしか病み病みし末 |
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○ |
東 京 |
吉村 睦人 |
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われらにもぢきにおとづれることとして老老介護の歌を読みゆく
けふが最後の勤めとならむ再々試の生徒五名の進級決め来ぬ |
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○ |
奈 良 |
小谷 稔 |
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スーパーにて抵抗のなく籠持ちし頃より吾に脱け落ちしもの
鉛筆を鋭く削りつつをりて何に恋しき昭和期なかば |
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○ |
東 京 |
雁部 貞夫 |
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釜無川の流れ鎮めし跡見れば信玄びいきを吾も肯ふ
雲峰寺の孫子(そんし)の御旗を行きて見む七百歳の桜咲く頃 |
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○ |
福 岡 |
添田 博彬 |
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抗癌剤効かざる細胞あるを知り密かに父母の墓立つるを決めぬ
電話の声太きに妹は安堵せるや春近き予報聞き墓参を誘ふ |
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○ |
さいたま |
倉林 美千子 |
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揺らぐ炎厨に充ちし一瞬のその次に何を為ししか知らず
燃えあがりし炎治まり事なきを得て歳晩の夜は更けてゆく |
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○ |
東 京 |
實藤 恒子 |
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増上寺の極まる紅葉(もみぢ)にわれを立たせ人は写真家の目となりてゐる
珊瑚礁に出で入る色の鮮やかなる小さきものらに釘付けになる |
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(以下 HP指導の編集委員・インストラクター・アドバイザー) |
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○ |
四日市 |
大井 力 |
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リヤ王の末期に自分をなぞらへていまししか最後の月の一連
谷ふかく樹氷の融けて息上ぐる奥よりかすかにひびく沢音 |
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○ |
小 山 |
星野 清 |
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個人情報やかましくいふこの国が年齢を示して巷ゆけとぞ
しかれども今日も高齢者による事故のニュース老いの強がりばかりは言ひ得ず |
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○ |
札 幌 |
内田 弘 |
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雪消えて放置自転車の出で来れば人間を支へしサドルが曲がる
チカチカと光る蛍光ペン引き読みてゐる少女よ茂吉の歌が哀れぞ |
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○ |
取 手 |
小口 勝次 |
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新しき世を見て詠めと言はれたる一言浮かぶ遺影に向かひて
神田川に架かるふれあひ橋に見る川面に揺るるビルの灯火 |
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