作品紹介

若手会員の作品抜粋
(平成21年7月号) < *印 新仮名遣い>


  武蔵野 坂本 智美 *

四年前「祭りのあと」で終わってる野球歌集の続編が今



  千 葉 渡邉 理紗 *

オアシスが砂漠にうもれ消えてゆくみたいに店舗が潰れる街並み



  大 阪 目黒 敏満 *

漢検に受かりしと証書を持ち寄る子理事の名に我が目しばしとどまる



  高 松 藤沢 有紀子 *

夜半過ぎて突然辞令の電話ありて我が人生は疾走し始む



  宝 塚 有塚 夢 *

風誘う桜の花の白く舞う理屈じゃないんだそのきれいさは





(以下 HPアシスタント アイウエオ順)

  福 井 青木 道枝 *

あたたかさに触れたくなりて母のもと髪白く背まがりそのあたたかさ
世に交じりそれぞれ乾くわれら三人(みたり)に母よあたたかさ分けてたまわれ


  横 浜 大窪 和子

宛先を違へしメール入り来たりわが終日の屈託となる
語り合ひ納得してる後(のち)にしてすべなきものか残るさびしさ


  那須塩原 小田 利文

両手にて「六」と示すを子に教へ湯船に今日も長くなりたり
「六歳」と両手にて示す幼子を妻は喜ぶ目を潤ませて


  東広島 米安 幸子

海明けて音戻りくる友の町いま水鳥ら発たむとするか
空気荒き北国の君の詠む歌の心抉りていよいよ寂し


  島 田 八木 康子

休業補償の手続き済ませ「笑ふしかないほど暇」と友はたくまし
何処よりも深く眠れると帰省せし子がまた言ふを複雑に聞く



選者の歌


  東 京 宮地 伸一

酒飲まぬ日にせむと朝は決めたるにやはり手が伸ぶひと仕事すめば
わが家に住む猫また数を増したれど息子に向かひ文句は言はじ


  東 京 佐々木 忠郎

東京に四月の雪も温暖化現象かたちまち晴れて花匂ふなり
息子より妻三回忌の通知来ぬ許せよ智恵子父は歩けぬ


  三 鷹 三宅 奈緒子

野路すみれほそほそ咲きてこのせまきベランダの春かビルのはざまに
この季(とき)の胸衝(つ)くかなしみは何ならむ花咲きわたり樹々の芽ぶくに


  東 京 吉村 睦人

折々に摘みて食ひこし庭のチャイブ紅き坊主をつけはじめたり
陸(おか)山葵といふを一束買ひて来てその一本を土に活けたり


  奈 良 小谷 稔

衰へし足はともかく見下ろしに重なる桜底ひもあらず
歓びはしばしなりとも照る花の下くぐり人の群くぐりゆく


  東 京 雁部 貞夫

ふるさと会津のスーパーに久々に見出でたり祖父鶴吉の始めし「白糸納豆」
維新後の貧しき会津を救はむと納豆作りを始めし祖父か


  福 岡 添田 博彬

あがりくるものの感触に器寄せて吐きたり黒く染まる液体を
副作用にておこりし会陰部ヘルペスを六日にて癒すと屈託のなし


  さいたま 倉林 美千子

嘆きつつかの夜一株おろしたる花韮土を覆ひて咲きぬ
花の触れ合ふ音か一面の花韮の疾風(はやち)に震ふ中に屈みぬ


  東 京 實藤 恒子

けふの歌会に満ち足り人ら帰りしとぞコンビの評の絶妙を言ひて
第一回安居会の人ら飲みしこの寺の水は喉(のみど)に沁みぬ



(以下 HP指導の編集委員・インストラクター・アドバイザー)

  四日市 大井 力

灌漑の池に向ひて舞へる獅子埋立前を祓ふ神事に
放棄田の増えて灌漑の水要らず池の役目も終るといふか


  小 山 星野 清

宇宙進化の論はおほよそ成れりといふアインシュタインより百年にして
観測による発見が証拠立てて宇宙論はや終末期とぞ


  札 幌 内田 弘

おほたかの急降下清し吾のみの憂ひは未だ微かに残りて
桜木は空に向かひて直截に既に莟の膨み来たり


  取 手 小口 勝次

幕末に天狗党蜂起せし筑波嶺の近き地に住みて二十八年
下仁田より和田峠に通ずる中山道その道下り西餅屋はあり


先人の歌


齊藤 茂吉  『白き山』大石田 移居より

蔵王より離(さか)りてくれば平らけき国の真中(もなか)に雪の降る見ゆ
朝な夕なこの山見しがあまのはら蔵王の見えぬ処にぞ来(こ)し
かりそめの事と思ふなふかぶかと雪ながらふる小国(をぐに)に著けば
最上川の支流の音はひびきつつ心は寒し冬のゆふぐれ
さすたけの君がなさけにあはれあはれ腹みちにけり吾は現身(うつせみ)
                     

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