歌集『青白き光』より 佐藤祐禎著
いつ爆ぜむ青白き光を深く秘め原子炉六基の白亜列なる
小火災など告げられず原発の事故にも怠惰になりゆく町か
原発が来りて富めるわが町に心貧しくなりたる多し
原発に勤むる一人また逝きぬ病名今度も不明なるまま
原発に怒りを持たぬ町に住む主張さへなき若者見つつ
三十六本の配管の罅も運転には支障あらずと臆面もなし
原発の商業主義も極まるか傷痕秘してつづくる稼働
原発の港の水の底深く巨大魚・奇形魚・魔魚らひそまむ
差し出されしマイクに原発の不信いふかつて見せざりし地元の人の
* 『青白き光』は平成十四年、今から十四年まえに上梓された。原発を原子力の平和利用と考る人の多かった当時にあって、地元大熊町に住む作者はその実像を喝破し、既にこのような歌を詠んでいたことは瞠目に値する。五年前の原発事故に被災され、この歌集を仮設住宅に住みながら二十三年に再販(いりの舎)、二年後に八十三歳で逝去された、新アララギの歌人である。
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