作品投稿


今月の秀作と選評



 (2007年7月) < *印 新仮名遣い>

倉林美千子(新アララギ選者・編集委員)


秀作



ひで *(新仮名)

松の葉にこのはずくひそむ「ほらあそこ」幼に指差す胸躍りつつ


評)
「息子」を「幼(おさな)」に。ひそかな声で教えている様子が生き生きとして、「ほらあそこ」が効いています。結句をこう言わないで「小さき声に」としたら、歌はどう変るでしょうか。考えてみてください。



英 山


ひと気なき牡蠣加工場の硝子戸をまぢかに見つつ船に過ぎゆく


評)
「牡蠣の加工場」の「の」を省きました。がらんとした加工場を見たところ、そこに焦点をしぼったところ、よかったと思います。



吉岡 健児


さまざまの品物並ぶコンビニの棚に酸素の缶詰の在り
事もなくけふのひと日の終りたりまなこを閉ぢて聞く雨の音


評)
一首目は、現代を身近な所でよく捕えています。二首目は整った静かな境地。「栄丸」の歌も下の句「錆びし船尾に暁の色」とすれば良いでしょう。連用日記は本当に短く記したの?きれいにしすぎる感じです。流されないように。



斉藤 茂

ボタンつける妻に頼まれ針穴に黒糸とほす一度でとほす



評)
得意満面、奥様と交し合う笑顔がみえます。楽しい歌です。「テントに双子のみどりご眠る」も良い。下の句で活きました。ほのぼのとします。


佳作



イルカ *


われ先に餌もらわんと口開けてつばめの雛は巣に声をあぐ



評)
つばめの、あとの二首も残しておくと良いでしょう。貴女の歌いたかったのは、「育ち来しつばめの雛のはみ出して一羽あやふし巣にしがみつく」ということではなかったのかな?面白いところを見ているのに、時間切れだった?



仲 山 *


色々の経歴持ちし人達のホームに入りて戸惑うばかり


評)
気持としてはどれも心ひかれますが、表現がもう一歩。例えば「このホームにバリトン歌手の来ますという共に歌おう故里の歌」「マスコット何時も付けいし車椅子ホームの秋田美人と聞きぬ」とか、一寸のことで良くなります。



新 緑 *


一輪車に大根押して来る老いを施設の人ら笑顔で待てり
後ろ向きに手摺伝いに下りるわれを見守りながら友も下り来る



評)
一首目その場の雰囲気を温かく捕えています。二首目、それでも歩けるのは有りがたいですね。皆が見守っていますからがんばりましょう。「われ」の次に「を」を入れました。



けいこ


濃き淡き小島の影の重なりて二艘の舟がかなたへむかふ
四月ぶりにふるさとへ発つこの朝抱けるをさなと交はす「さよなら」



評)
「舟は」でなく「舟が」にしてみました。二首目ですが、「抱けるをさな」とさよならなのですか? 作者と幼児は一緒に発ち、誰かとさよならを交わすのですか?良い歌になりそうなのに、そこのところが一寸曖昧でした。



栄 藤


チャイム鳴る度に吠えゐしわが犬の死にたるゆゑに吠ゆることなし



評)
「死にたるゆゑに」は普通は理屈めいて生きない句ですが、この作では、当たり前の事実を強調して、ある悲しみを表現できたように思います。「高校球児を」と「を」を入れてこの歌も残せるでしょう。ところで、三度の食事が苦痛だという状態、良くなりましたか?心配です。


寸言


選歌後記

それぞれにかなり細かい評をしましたので、それぞれの作品をもとに考えて頂けると思います。全体に作品のレベルアップ、投稿者とアシスタントの真剣な取り組みが感じられます。対面は出来ないけれど体温は感じられるようで、うれしく思いました。
 今回抽出した作品には殆ど優劣はありません。秀作にはむしろ可能性、たどたどしくはあっても可能性を基準に選びました。ひでさんには、ぜひ五首の最終稿を期待します。


          倉林 美千子(新アララギ選者・編集委員)


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