「今こそは匍匐前進」と口に出る折おりのあり昭和一桁
太 田
わが指に柚子の香りの残りゐてつめたき蒲団引き寄せて寝る
松 本
古池まで歩くをわれの日課としその速さにて体調を知る
新 緑
道中の公園に入り花を見て気持ちあらたにリハビリに行く
市 村
隠り水の音こもりゐる春日山この原生林に人影はなし
山本 景天
御寺にて座禅組みゐるわが視野に蝋梅の黄のうつむき咲けり
けいこ
手を繋ぎをさなと上る園の道「やまたのおろち」の話などして
吉井 秀雄
霙降る小暗き庭に濡れそぼつ寒水仙の今は匂はず
勝村 幸生
朝の海に休みをりたる鳥数多飛び立たむとしてざわめき始む
美 糸
蝋梅を手折って孫に見せてやりわが母の顔祖母らしくなる
まりも
正月に使ひし布団を干してをり鈴鹿の山に雪が輝く
小谷 稔(新アララギ選者・編集委員)