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今月の秀作と選評



 (2011年8月) < *印 現代仮名遣い>

 吉村 睦人(新アララギ代表)


秀作



Heather Heath H *


洗い籠に亡き母使いし椀や箸置きたるままに百日の過ぐ
核被爆みたび起きしかこの国に子のため母らは測定器持つ


評)
5首ともしっかりした歌。2首をもって代表とする。2首目「・・・みたび起きたるこの国に」などとも出来るが、このままの方が心の波動が伝わる。


佳作



熊谷 仁美 *


抽出の中身をすべて放り出しおさなは次の標的探す


評)
3首目の「投げたボールも絵本のページもそのままに寝息を立ている小さき体」とどちらにしようか迷った。幼い子がいきいきと描かれ、それに対する母親(でしょう)の思いも感じ取れる。



吉井 秀雄


籠もりたる杉の匂ひの薄れゆき風吹きくるは峠近しか


評)
杉の木の繁っている傾斜地を通り過ぎようとする時の感じ。「峠近しか」は「峠近きか」。助詞「か」の前は連体形。



山根 沖


雲低く垂れ込めをれどそれほどに暗くはあらず金鳳花の道


評)
初めの3首はどれもさしたる甲乙はなく採れる歌と思う。ただどれもこれと言う決め手(個性)を欠いている作とも言えば言えよう。



もみぢ


梅雨空にメタセコイアの高く伸ぶ生きたる化石とガイドは指さす


評)
メタセコイアが生きた化石と言われることは有名だが、その実物をそうしょっちゅう見られるわけではないので、この歌にも一つの感銘が捉えられていよう。



なの  *


夏雲の間に見える送電塔赤き耀き地平に八つ


評)
「夏雲の間」がちょっと無理かも知れない。「赤き耀き」はどういう状態だろう。防錆の塗料の塗られた様だろうか。普通は赤と白で塗り分けられている。



紅 葉 *


懸案の昼食会は無事終わり五月は急に終わりを告げる


評)
5首とも思わせ振りなところがあって、それに魅力も無くもないのだが、この1首が一番よいと思う。これも具体的でないが、何か緊迫を感ずる。



金子 武次郎


「生垣に花のある団地はいいですね」老女(おうな)は言いて過ぎてゆきたり


評)
他の歌は「放射能」や「メルトダウン」を歌っているのだが、少々公式的。この歌が素直でよい。



石川 順一 *


土浴びをしている雀小窓から見えて心をなごましめたり


評)
「なごましめたり」と説明して言わないで、なごんでいる感じが出せるとよい。



安 藤 *


雨足に追われて入りし軒下に燕の巣あり離れて二つ


評)
結句の「二つ」「離れて」と言うのがどういう感じを表わそうとしたものか、あまり出ていないようだ。同じ「軒下」なのだから真実としても「離れて」とまで細かく言わない方がよいと思う。「二つ並びて」ならいいのだが。


寸言


選歌後記

半年振りに皆さんの作品に接し、どれもきちんとレベルに達していることを感じました。日ごろの研鑽のたまものでしょう。さらに頑張って下さることを願います。

            吉村 睦人(新アララギ代表)



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