佳作 |
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○
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熊谷 仁美 *
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抽出の中身をすべて放り出しおさなは次の標的探す |
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評)
3首目の「投げたボールも絵本のページもそのままに寝息を立ている小さき体」とどちらにしようか迷った。幼い子がいきいきと描かれ、それに対する母親(でしょう)の思いも感じ取れる。 |
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○
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吉井 秀雄
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籠もりたる杉の匂ひの薄れゆき風吹きくるは峠近しか |
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評)
杉の木の繁っている傾斜地を通り過ぎようとする時の感じ。「峠近しか」は「峠近きか」。助詞「か」の前は連体形。 |
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○
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山根 沖
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雲低く垂れ込めをれどそれほどに暗くはあらず金鳳花の道 |
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評)
初めの3首はどれもさしたる甲乙はなく採れる歌と思う。ただどれもこれと言う決め手(個性)を欠いている作とも言えば言えよう。 |
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○
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もみぢ
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梅雨空にメタセコイアの高く伸ぶ生きたる化石とガイドは指さす |
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評)
メタセコイアが生きた化石と言われることは有名だが、その実物をそうしょっちゅう見られるわけではないので、この歌にも一つの感銘が捉えられていよう。 |
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○
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なの *
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夏雲の間に見える送電塔赤き耀き地平に八つ |
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評)
「夏雲の間」がちょっと無理かも知れない。「赤き耀き」はどういう状態だろう。防錆の塗料の塗られた様だろうか。普通は赤と白で塗り分けられている。 |
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○
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紅 葉 *
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懸案の昼食会は無事終わり五月は急に終わりを告げる |
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評)
5首とも思わせ振りなところがあって、それに魅力も無くもないのだが、この1首が一番よいと思う。これも具体的でないが、何か緊迫を感ずる。 |
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○
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金子 武次郎
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「生垣に花のある団地はいいですね」老女(おうな)は言いて過ぎてゆきたり |
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評)
他の歌は「放射能」や「メルトダウン」を歌っているのだが、少々公式的。この歌が素直でよい。 |
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○
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石川 順一 *
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土浴びをしている雀小窓から見えて心をなごましめたり |
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評)
「なごましめたり」と説明して言わないで、なごんでいる感じが出せるとよい。 |
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○
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安 藤 *
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雨足に追われて入りし軒下に燕の巣あり離れて二つ |
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評)
結句の「二つ」「離れて」と言うのがどういう感じを表わそうとしたものか、あまり出ていないようだ。同じ「軒下」なのだから真実としても「離れて」とまで細かく言わない方がよいと思う。「二つ並びて」ならいいのだが。 |
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