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(2011年10月) < *印 現代仮名遣い> |
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大井 力(新アララギ選者・編集委員) |
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秀作 |
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○
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鈴木 あきら
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叔母の家津波ヘドロに沈めたる海と思へず凪ぎわたりたり |
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評)
自然災害は人の対応力をも鍛える。作者の今向っている海はあくまでも静かである。自然の力を言わず凪いだ海から学ぶ姿勢がいい。 |
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○
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丹野 藍
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窓の外たちまち雷雨に暗む昼文庫本あさる古書店のすみに |
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評)
人に時は待ってはくれない。日常のなんでもない時のすごし方に情感がある。 |
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○
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まりも
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骨壷に納まりし犬に好物の葡萄パン供へ声に呼びたり
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評)
骨になった犬は家族であったのであろう。結句にかなしみがよく出ている。 |
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○
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熊谷 仁美
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エコバッグに収まるだけの買い物し子を乗せ今日も自転車を漕ぐ |
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評)
別の歌に「振り回され疲れ果てては癒される育児は一途な恋にも似たり」がある。子を育てる日常のこころ動きが併せて読むときよく分かる。 |
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○
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Heather Heath H
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フクシマへ事故後出掛けて戻らぬと下請さんは自が友案ず
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評)
これもフクシマの現況なのである。核武装していない国が核の平和利用している世界で唯一の国がこの日本である。事故後戻らない下請けさんの実態は分からない。そういうものに支えられているのが現状なのだ。その断面が切り取られている。 |
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○
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もみぢ
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蝉ごえの絶えざる木下抜く草にいくつも縋る飴色の殻 |
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評)
過ぎてゆく時間を凝視しているのであろう。音感と視感が交錯している歌。 |
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佳作 |
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○
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なの
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風に揺るるやぐら提灯眺めつつ夏の終わりの太鼓を聞けり
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評)
季節感がよく切り取られている。 |
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○
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金子 武次郎
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物忘れ無き一日を授かりて自らの床みずからに伸ぶ |
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評)
授かるという感覚は作者の持っている人柄そのものであろう。いい感じの歌である。 |
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○
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おれんじぴーる
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病む窓を打つ雨高く低くして覚めて久しき不整脈音 |
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評)
「して」と「久しき」がやや落ち着かないが、不安感のよく出た歌。 |
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○
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石川 順一 *
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石ころのあらわなる地を日々覆う夏草厠で見つつとき過ぐ
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評)
語順を変えるといい歌になろう。上の句から下の句への時間の推移がいまひとつである。「石ころのあらわなる地を覆いゆく夏草日々に眺めて過ぎぬ」でいいように思う。 |
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○
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紅 葉
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福岡に着くたびきみにメールして一人暮らしのふたとせとなる
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評)
生活の情感がよく伝わる。これもいまというまさしく現代の断面である。 |
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○
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安 藤
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店先の林檎晩夏の陽を浴びて家路を急ぐ足を急かせぬ
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評)
淡いが生活感のある歌。 |
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● |
寸言 |
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選歌後記
歌は生活詩であり、情感のうねりでもある。この狭い地上に命を繋ぐものたちが情感を交しあう。このはかない詩形は限りない可能性をまだ秘めているのである。それを信じて詠み、読み続けたい。
大井 力(新アララギ選者・編集委員)
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