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(2011年11月) < *印 現代仮名遣い> |
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内田 弘(新アララギ会員) |
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秀作 |
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○
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金子 武次郎
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暑いねと言い交しつつ席に着く節電オフィスの灯りの暗し |
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評)
上の句の実感ある表現が良い。「節電オフィス」は端的な言い方で注目した。この夏のある断面を切り取って手際よく纏めたところを評価した。 |
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○
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まりも
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墓ごとに櫁供ふる故郷の秋の彼岸は小雨にけむる |
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評)
大人しい詠み振りだが、なかなか情感が溢れていて良い歌だ。下の句のしみじみとした詠い方が自然で良い。 |
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○
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なの
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満月の真中に影を移しつつジェット機は行けり一直線に
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評)
満月を背景にジェット機が影を移す、と言う所を捉えて歌にしたのは手柄だ。しかも一直線に、というのだから視点が定まっている。新しい境地だ。 |
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○
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もみぢ
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手慣れたる仕草に稲刈る少年の額に巻きたるタオルたくまし |
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評)
情景が目に浮ぶようだ。タオルに凝縮させて作者の少年に対する気持ちを表現しているところが新鮮だ。 |
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○
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丹野 藍
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マネキンは赤きマフラー首に巻き暑さの残る街路を見つむ
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評)
マネキンに人格を持たせて、季節を表現した。斬新ではないか。注目した一首だ。こんな詠い方もあってよい。見慣れないかもしれないが、表現というのは果てしなく個性的で広がりを持って良いのだ。 |
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○
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Heather Heath H *
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願うこと有りて仰げばベガに向け長き尾を引き星流れ行く |
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評)
なんなく詠っているが、なかなかの作品だ。初句のさり気なく詠いだしているところが良い。 |
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佳作 |
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○
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石川 順一 *
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パソコンのウイルススキャンを先延ばし後からやるのが日常となる
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評)
現代の歌。日常的にウイルスに対する対策は遣られているが極めて面倒、しかも辟易する事だ。自ずと後回しになってゆく。そこを、飾らずに歌ったところが良い。 |
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○
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熊谷 仁美 *
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ケイトウの花まっすぐに幼子の背丈を追い抜き夏は終りぬ |
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評)
ケイトウの伸び行く様を、幼子の背丈に合わせて表現したところが新しい。「夏は終りぬ」の結句も無理がない。 |
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○
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おれんじぴーる
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警戒の声あげ空を飛び回るカラスは空を侵し続けぬ |
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評)
「空を侵す」と捉えたところが独特である。カラスを詠う歌は多いが、この様に個性的に捉えて詠う、と平凡ではない歌になる。 |
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○
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紅 葉 *
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来年もここにいるのか汝が顔のうかんで消えるおそ夏の海
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評)
来年もまたこの海を汝とともに見る事ができるのだろうか、という事を前提にして詠いだされている。もっと気持ちを前面に出して詠ってもよい。しかし、気持ちは一応表現されていると言えるだろう。 |
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○
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鈴木 あきら *
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涼しさは猫が知りたりキッチンの敷居に頭のせて眠りぬ
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評)
猫の生態と言ってしまえばそれまでだが、何か倦怠感を表現していて面白い。そんな猫を見て詠っている作者の視点が面白い。 |
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● |
寸言 |
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選歌後記
秀作と佳作の作品にはそれ程の差はなかった。
それぞれに工夫が凝らされていて、見所がある。
歌は、どこかその作者でなければ、という所がなければ、平凡な誰でもが詠っている歌の二番煎じに終ってしまう。例え、不完全でも、自分の見方、感じ方を、主張しなければならない。その意味で、今月は、工夫した作品が多かったように思う。
誰の為の歌でもない、自分の為の歌なのだから、思い切って歌で自分を主張することだ。それが巧く行かなくても思いきって詠ってほしい。
内田 弘(新アララギ会員)
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