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(2013年12月) < *印 新仮名遣い> |
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八木 康子(HP運営委員)
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秀作 |
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○
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紅 葉 *
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点滅を走り出す人留まりてイチョウ並木の葉裏見る人 |
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評)
傍観的・写生風に詠みながら、推敲によって、深いところまで思いの及ぶような奥行のある作品となりました。 |
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○
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波 浪
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われに寄る鹿の可愛ゆき貌見れば十五年居し亡き犬に似る
「年毎に老いる」と言へば農を守る弟は言ふ「日毎に老いるぞ」 |
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評)
鹿に焦点を絞ったことで共感が増しました。下の句の発見は誰でもできるというものではないでしょう。2首目、短い会話ながら胸に迫るものがあります。2首共に人柄の見える作品です。 |
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○
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くるまえび *
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先人の苦しみ耐えしキビ畑今はススキ野茫々と続く |
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評)
観光の対象とはまた別のハワイの姿、ハワイの歴史を詠わずにいられない強い思いが、寂寥感と共に伝わります。 |
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○
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菫 *
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ほぐさんとすれどなおさらもつれゆく諍いの後の人の心は
祭礼のレイを編むらし我が庭にプルメリア摘みたる花盗人は |
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評)
何より厄介なのが人間関係、そして、日常のちょっとした心象を的確に切り取るのが実は一番難しいとも。2首目、特殊な歌材でしたが、苦労の果てに言いたかったことがそのまま伝わる作品に仕上がりました。ハワイらしさ満載です。
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○
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まなみ *
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緑濃き森の谷間のフラレッスン鳥の落し物まずかたづけて
連れだちて近所廻りし芋名月日本の秋想うハロウイーンの夜 |
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評)
メルヘンのような上の句を、下の句の現実が裏打ちして着実な歌となりました。2首目、国は変わっても、似たような風習が子供たちに伝えられていることを手際よくまとめました。 |
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○
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茫 々
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空の蒼さわが身に沁みて心(うら)淋しジェット機ひとつ糸を曳きゆく |
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評)
感動を全開にした初稿から、しっとりと落ち着いた抒情歌へと推敲できました。 |
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○
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Heather Heath H
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古き良き柳川愛でつつ下り行けば白秋祭の電飾あまた |
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評)
白秋祭さえも電飾かという作者の落胆が抑えて表現され、現地を知る人からの同感も多そうです。 |
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佳作 |
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○
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栄 藤
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秋祭りの檀尻が行く家が建ち僅かとなりし田の傍を
ニユースをひとり占めして台風は北北東へ逸れて行きたり |
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評)
緑豊かな田園だったことを知ればこそ一層思いは深いのでしょう。情景鮮明な歌。2首目、最悪の事態を想定しての報道とは言え、毎回毎回まさに「ニユースをひとり占め」ですよね。よくぞ詠んだり!の感深し。 |
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○
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岩田 勇
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旧友に会へば介護のことばかり互ひに母の百歳近く
全身の肌黒ずみて癌病む妻化粧濃くして過ごすもあはれ |
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評)
高齢社会が他人事でなくなった現代の嘆きを率直に詠って、身に迫ります。2首目、初句を「全身の」としました。寄り添う心が滲みます。 |
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○
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時雨紫 *
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雑貨屋の一文字消えし看板に「談」の入りて我もドア押す |
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評)
店主のアイデァも秀逸、それに応えて一首にした作者のフットワークの軽さも快く、前向きで楽しい一連でした。 |
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○
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ハワイアロハ *
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メールでは伝えきれない感情を表したくて絵文字を探す |
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評)
日常の一瞬を的確に捉えた歌。文字だけだったためにまさかの反応をされてしまった、私の苦い経験を思い出しました。 |
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○
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紅 葉 *
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わたくしの休みは休み社長から「分かってない」と叱咤されても |
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評)
仕事の歌も世につれて変化するのは当然ながら、平成らしい割り切り方が潔い作。日頃の職能に自信があってのことでしょう。 |
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○
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金子 武次郎 *
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五十年向かい家同士で助け合いし君の訃報をこの朝に聞く
抱えられ介護のバスに乗る君を見納めせしは一月前か |
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評)
五十年とは結構な年月でした。淡々と詠みながら、ご自身と重ねる思いもあっての一連でしょう。つぶやくような詠みぶりに情感がこもります。 |
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○
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Heather Heath H
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ヒヨドリの羽音を立てて山帽子の赤き実落とす遊ぶがごとく |
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評)
単に実を落とすためだけに騒いでいると見抜いたところは、よく見るという写実の基本そのものです。 |
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○
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波 浪
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ツーアウト満塁にて打ち上げし球宝を受くるさまに捕つたり |
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評)
熱心な練習の積み重ねがあってこその見事な瞬間。爽快感が伝わります。 |
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● |
寸言 |
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選歌後記
「自分の感情を、見知らぬ他人の同感し得る程度にまで抑制することによって、平静さや落ち着きを取り戻すところに、人の美しさがある」とはアダムスミスの言葉です。
作歌にも、それは応用できる姿勢だと思いました。
そのうえで、集中しすぎてつい忘れがちな「韻律を持つ短詩である」ということに立ち返りつつ、一歩一歩歩んでまいりましょう。
石川さんには、共に完成に近づくためにも、もう少し早めに提出されることをお勧めします。
八木 康子(HP運営委員)
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