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今月の秀歌と選評



 (2015年8月) < *印 現代仮名遣い>

青木 道枝(HP運営委員)



秀作



笹山 央 *


繭玉より繰り出す糸はゆるやかな波の形に光を宿す
草木にて染めたる糸を経緯(たてぬき)に織りし布なりいのちを包む


評)
糸を紡ぎ、織る。日々のいとなみから生まれた一連。初稿から心惹かれた。「いのちを包む」は、祈りとも言えよう。



若山 かん菜 *


足の爪ピンクに染めた日曜日サンダル下ろして夏への一歩
深夜まで電車が揺らす石地にも姫女苑咲く十年先も


評)
2首目。線路ぎわの荒草。何でもないような光景に目を留め、十年後を確信する。1首目の口語、若さがあふれる。



まなみ *


頂上で帽子を取りて風のなか水平線にモロカイ島望む
校門は重要文化財となり昔のままに我を迎うる


評)
読む者を風のなかに導き、眼下の広がりを感じさせる。2首目、素朴な詠みぶりが、あたたかさを含んでいる。



ハワイアロハ *


ハルカスの高みに見ており大阪の街を流るる夏雲の影


評)
久しぶりの帰国であろう。あたらしくなった街並を、包み込むような視線で見ている。流れる「夏雲の影」が印象的。


佳作



ハナキリン *


東屋を吹きぬけてゆく風のなか心軽くなれる我に出会いぬ


評)
改稿1になり、大きく歌が動いた。風のながれのように柔らかな詠みぶり。結句が、なんとも魅力的である。



金子 武次郎


わが終の棲家とならむ墓所求め訪ひし霊園は公園のごとし



評)
重い内容で始まるが、結句は「公園のごとし」と、からりとしている。自分の生に丁寧に向き合う中から生まれた歌。



菫 *


旅の途に一日訪ねんハイドパークを大統領の愛せし生家



評)
フランクリン・ルーズベルトの生家を訪れた折の一連。弾むような息づかいが感じられるこの歌をもって、始まる。



雲 秋


老人会麻雀有志の集まりて卓を囲めばかがやく眼と眼



評)
え?と思う内容で始まり、結句に至って一気に高められる。「かがやく眼と眼」という把握が、この歌の命であろう。



時雨紫 *


目の見えぬ母に別れを告げしとき頷くのみに長き沈黙


評)
施設の母君を訪ねた折の一連の歌から。結句の「長き沈黙」は、別れがたい母と娘の思いを伝えてくる。



波 浪


逞しくはあらぬ身体に生きて来し八十八年か鏡に見入る


評)
自分をいたわるような深い眼差。「鶴と亀の折り紙付けて妹二人米寿の祝ひを持ち来てくれぬ」に続く歌。



夢 子 *


ソロソロと手を差し延べてオランウータン蝉に触りてみんとするなり


評)
ただ一点に絞って、行動をとらえた。そのためであろう、人にも似通う“好奇心”と緊張が、ありありと描かれた。



紅 葉 *


あの角を曲りきらずにまっすぐに走り続けんきっとあるはず


評)
作者の住む地、広島の街を詠んだ一連の歌から。ジョギングの時にふと抱いた、何かを待ち望むこころの動き。



くるまえび


はるばると訪ね来たりし甥たちにレイ掛けやりぬ家族の絆


評)
下の句には、熱い思いが凝縮されている。「妻とともに苦楽乗り越え四十七年海外暮らしの・・・」の歌が続く。



鈴木 政明


存在を誇示するごとく蛙鳴きてわが故郷の春は過ぎゆく


評)
上の句の独自な感じ、つづく下の句の大きな捉え方に惹かれた。畔に咲く菖蒲の歌も、丁寧な詠みぶりであった。



岩田  勇


工大の門の柘榴の実の爆ぜて人ら見上ぐる日曜日の朝


評)
結句に至るまで、丁寧に詠まれた。「工大の門」「日曜日の朝」といった具体的な語が歌を生き生きとさせている。


寸言


 最終稿のそれぞれに、心ひかれる歌が含まれていた。選の順序には、あまりこだわらないで受けとめて欲しい。新旧の仮名遣いが混じっている所、また、語句の用い方の気になる所など、ほんの少し直して選んだ作品もある。

 今月は、若い方もおられ、また、手先の技術を生かす仕事を詠まれた方もおられ、うれしかった。何が見えているか、どう感ずるか。固まってしまうことなく、“自分の感じ方”を求めてゆきたい。

青木 道枝(新アララギ会員)



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