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今月の秀歌と選評



 (2018年2月) < *印 新仮名遣い

八木 康子(新アララギ会員)



秀作



ハワイアロハ *


ありったけの鍋に水張りカーテンを閉め回る娘につられて動く
今日までの平和な日々を思いつつ子を抱く娘と肩寄せしゃがむ


評)
北朝鮮からハワイにミサイルが発射されたという緊急警報におののく様がリアルに表現された。最終稿に提出されなかった5首中の1首目は、まだ現実と思えない戸惑いがそのまま詠まれ、雰囲気を捉えていた。



紅 葉 *


生え際の薄さ目に立つ日帰りで名古屋を往復しただけなのに


評)
出張から帰ってふと手にした空白の時間だったのだろう。日々見ている筈なのに意識すらしていなかった生え際、言外に追われるように過ごした日々を描いて、共感を呼ぶ作品となった。



来 宮  *


年の瀬の父母の命日テーブルに遺影も置きてメリークリスマス


評)
結句は想像もできなかった明るい展開で、生前のご両親との日々も彷彿とさせ、ほのぼのと温かい気持ちに包まれる一首になった。



つはぶき *


松が枝の剪定なす手の早まりぬ師走晴るる間ぱらつく雨に


評)
5首ともに日々の暮らしの息遣いが伝わり、どんなことにも熱く取り組む作者の姿勢がそのまま完成への道になった。表現を短歌らしくと思う必要はないので、もっと楽に普段の言葉で、今のままの歌材の見つけ方で進んでほしい。



原 英洋 *


川風を節くれ立った枝振りて引っ掻くように揺れる街路樹


評)
最初は視点の変わった詠みぶりにちょっと違和感があったが、隠喩を直喩に変えるという作者のひらめきによって、こんなに印象が変わるものかと驚いた。


佳作



仲本 宏子 *


来る年に「平成」もまた閉じられむ我が人生の濃き三十年



評)
平成がこんなに早く閉じられるとは、という思いは誰にもあったのではないだろうか。多くの人の思いが力むことなく代弁され、自身に引き付けた下の句で奥行のある歌になった。



時雨紫 *


白足袋の摺り足の音今し消え「平花月」の札手早く回る



評)
茶席の緊張感と臨場感が丁寧に捉えられた。「窓の辺に日向ぼこする夫の背の毛玉がまぶし冬の陽浴びて」も、歌集にまとめる折にはぜひ入れて欲しい情景鮮明な一首と思う。



かすみ *


幼なかりし頃と変わらぬ大きさで冬の夜空にオリオン光る



評)
素材の特異さばかりでなく、このようなふとした感慨も見逃すことなく一首にできる力を備えた作者に期待したい。



くるまえび  *


戌年のカネオヘ湾の初日の出静かに昇り海面照らす



評)
平明な歌の中に作者の長い人生のドラマが豊かにたゆたっているようだ。「海面(うなも)を照らす」と助詞を。



夢 子 *


桃太郎の凛々しき顔に引き込まれ本屋より黙って抱き持ち帰りき



評)
ちょっと酸っぱい思い出を歌にした勇気にエールを送りたい。結句は「抱き(いだき)帰りき」と。キャンディの包み紙で校舎の廊下を磨いた歌も、興味深いものだった。今後も作者ならではの記憶を披露してほしい。



中野 美和彦 *


父母(ちちはは)も妻も逝きたる庭先に満天星の芽の赤くきらめく



評)
去来する思い出が幾重にも尽きない日々なのだろう。「きらめく」は、満天星の芽を見たままに「角ぐむ」とすると、より心境に添うように思う。



鈴木 英一 *


藪道を分けてたどりし飛鳥の古墳柵で閉ざされし石室覗く



評)
明日香での新鮮な感動が背伸びすることなく詠まれ、同行している気分になった。「レンタサイクル次々と過ぐ」の歌も高揚感がのびのびと表現された。


寸言


 選歌後記

 今回「先人の歌」に取り上げたのは、このHPの発足当時、時に先輩として助言をくださった新津澄子氏です。その心に住み続けたというアドバイスをご紹介します。

「休んで疲れるという言葉がある。
できなくとも苦しんで作れ。
続けることが大切だ。」

 継続の原点として「休んで疲れる」は至言だと思いました。「今回は休詠しようか」という悪魔のささやきが聞こえた時のために胸に刻んでおきたいものです。そう言えば「締め切りはわが友」と言った人もいました。共に大切にしたい言葉です。

八木 康子(新アララギ会員)


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