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今月の秀歌と選評



 (2018年3月) < *印 新仮名遣い

青木 道枝(新アララギ会員)



秀作



コーラルピンク *


()に唄う夫の歌が聞こえくる高熱に我ひとり寝る部屋に
サンタへのクッキーを用意する娘来年もまだ信じていようか


評)
娘さんに歌っている夫の声を、離れて聞いている作者。「高熱に・・・部屋に」には、安堵も寂しさも含まれているようで、心に残る。二首目、その娘さんの年ごろが想像される歌。
(「我高熱で」→「高熱に我」と直しました。)



つはぶき


積もる雪汗あへて掻く六時間うつすらと白く星の見えくる
天神講の焼ガレイのこといふ夫に耳かたぶけて語らふ夕べ


評)
二首ともに、心に潤いが伝わってくる歌。「うつすらと・・・見えくる」「耳かたぶけて」という丁寧な表現が、歌を深めている。



夢 子  *


一滴も酒飲まぬ人と向かい居て酒を飲みたり罪びとの如く
酒飲むを今は断ちたる君なりて微笑み浮かべ我を見つめる


評)
酒に関して、何かご事情のある君なのであろう。二首目の「微笑み・・・見つめる」には、互いに通い合う思いが込められている。



鈴木 英一 *


池の傍に鴨ら並びて休みおり青鷺一羽に距離を置きつつ
散歩道どこかでいつも会う犬ありその目が言ってる「知っているよ」と


評)
鴨と青鷺の様子のみを詠んだ一首目。鳥の世界の事であるのに、何か人のありさまにも触れてくる。二首目、下の句はちょっとユーモラスでもあり、また寂しくもあり・・・。



くるまえび *


庭に座し流るる滝の音を聞き心鎮めて尺八を吹く
風そよぎ椰子の葉揺れて心地良し癌抱うるも生くる喜び


評)
二首目、「心地良し」と詠み、「癌抱うるも・・・」と思いがけない言葉が続く。「生くる喜び」という結句が、しみじみと心に残る。一首目、ハワイ在住の作者であることを思う時、深みをもって受けとめられる歌であろう。



中野 美和彦


亡き妻にかつて選びしスカートのごと紺青の海なり雪舞ふ
中学受験に向かふ雪道に見初めたり青きリボンの少女なりき



評)
冬の海は、深い色を湛えている。すぐに連想されるある日のこと。作者の胸に、妻は生きておられるのだ。「雪舞ふ」という現実が、歌を引き締めている。


佳作



紅 葉 *


明日は雪と予報ながれる日曜の午後に旅立つきみを残して
うんていを一つ二つと前進す肩のはずれる恐れも忘れて


評)
雪の予報、しかも日曜の午後 という中での旅立ちだ。「きみを残して」という結句が胸にひびく。二首目も、口語が生かされており、親しみを感ずる歌。



かすみ *


手の中に柔き粉雪かためつつ口に入れしよこの庭なりき
闇の中ベランダ側の雨戸閉めぬ積もれる雪に手型残して


評)
「手の・・・入れしよ」という丁寧な表現には、読む私達にも幼い日を思い出させる。「この庭・・」と、今に結びつけ、余韻を残す。二首目、下の句にこころ惹かれる。



めいきょん *


片隅の夫の遺影に目をやれば笑顔のビーム吾に飛び込む
手を繋ぎわが前を行く老夫婦どちらが杖か分からぬ二人


評)
「笑顔のビーム吾に飛び込む」は、今風の表現であり、その明るい言い方には、日々の前向きな生き方が込められているようだ。二首目、ユーモラスであり、あたたかな歌。



原 英洋  *


スタッフが雪掻きを抱え指示を聞く開店前のフライドチキン屋
湯に入れば冷えた手足の痺れつつため息つきぬ浴槽の中


評)
スタッフらの、その場の緊張感が伝わってくる。雪にはあまり馴染みのない地であることも感じられる。こういう場面も歌になるのだ。二首目、ほっとする思いが滲み出ている。
(「雪掻き」と、道具であることをわかり易く表記しました。)



仲本 宏子 *


一晩中咳き込み朝となりたれば茜さす屋根には一面の雪
十五年時を隔てど電話にて心は行き交う職場の友と


評)
咳に苦しみ、朝となって目にした、屋根にあふれるかがやき。はっとする思いが詠まれた。二首目、共に働いた仲間との深いつながりは、十五年経ても褪せることはないのだ。



菫 *


カシミアのラクダ色した肩掛けを母に着せむと荷物に加う
小雪舞う停留所には一回り痩せたる姉が迎えくれおり



評)
離れて住む肉親との再会である。「カシミアのラクダ色した肩掛けを」は細やかな表現であり、母への思いが込められている。二首目「一回り痩せたる姉が」は、胸に沁みる。



ハワイアロハ *


いち早く「mine」を覚えて一歳児は大きい子らとおもちゃ取り合う
一歳の新しき芸「幸せな人は?」の問いに「ハーイ」と手を挙ぐ


評)
幼子の言葉遣い、動作は、日本もアメリカも同じであり、ほほえましい。二首目、言葉の意味はよくわからない幼子であっても、語尾が上がる問いかけ口調には、「ハーイ」と応ずる。人と人との親しい関係が、幼子の心を育ててゆくのだ。



まなみ *


老いてゆく犬の姿に自らの老いの姿を重ねて見つむ
住む人も魚も病気の家の中仔猫は走る端から端まで


評)
二首目、ひっそりした家の中。置かれている水槽の中にも、魚がひっそりと。「仔猫は走る端から端まで」により、一気に活気づく。一首目の犬の歌も簡潔であって、いい。



時雨紫 *


雪道をペンギンのように俯きて列なし進む子らの映れり
何もかも凍える零下の視界には往き交う人なし水墨画いろ


評)
「映れり」とあるから、映像で見た様子なのであろう。ただならぬ雪の日の情景を、とらえた二首。あとの歌には、煙るような吹雪の視界が大きく捉えられている。


寸言


 選歌後記

 最後に投稿されてきた作品を読んだとき、それぞれの作者にあらためて親しみを持ちました。二首あると、その作者の個性がさらに感じられるように思え、一首には減らせませんでした。

 これからも、ご自分の感じ方を大切にそだててください。
 生きる日々の中から、歌が生まれてくることを信じて。

青木 道枝(新アララギ会員)


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