作品投稿


今月の秀歌と選評



 (2019年1月) < *印 新仮名遣い

大井 力(新アララギ選者)



秀作



ハワイアロハ *


母親の亡骸に語りかけながら寒き夜の明けひとり待ちたり


評)
切ない別れの時の心が結晶した歌である。亡骸に語ることはいかなることであろうか、幼いころのことに始まり、苦労をかけたことへの詫びでもあろう。



夢 子 *


死ぬことは眠るにも似し感覚かそのまま目覚めぬ日のこと思う


評)
死の感覚はだれも経験したことがない。臨死体験ということは頭で考えていることとは少し違うものとも思うが、眠る際いつも死ぬときはこういうものかと作者は考える。そこに三十一文字が生まれる。



中野 美和彦


母に愛され心を開きし子がいまは亡き母のこと語ることなし


評)
親も子も寂しい。そういう思いで親も子もいのちを深めるのではあるまいか。



文 雄


九十のよはひ授かりもういいと思へば終も重くはあらず


評)
淡々といのちのことを考えるとこうなるのか。人は欲が深く終わりの事が怖くて考えられない。だからさけて忘れる。悲しいものである。



山水 文絵 *


義母はは逝きて明けたる今年も変わりなく習いし通りに雑煮作りぬ



評)
変わらない生活の営み、淡いかなしみが巧みによみこまれている。義母に習った通り雑煮をつくる。そこに思い入れがある。


佳作



時雨紫 *


われと同じ空気を吸いてひと月の孫の体温感じて抱きしむ


評)
上の句の感じ方が全ての歌。この世に初めての空気を吸う、孫をすでに人格を持ったとして詠まれている。従来にない孫の歌。



紅 葉 *


ひげ剃りのカバーを付けたそのままにひげを剃る父退院いまだ


評)
父への深いいたわりの思いが抑制した表現で述べられている。



はずき *


モアイ像連ねて島を守らせしいにしえの人に思いを馳せぬ


評)
いにしえに思いを馳せる。自らの原点を見つめる作業でもある。



つはぶき *


姪の家族見送りてテーブルに息をつく積まれし食器をその儘にして


評)
血縁とはなにか。作者も読者も考える。正月とはそういうものを考えさせる、区切りの季節。



鈴木 英一 *


開発の波に飲まれし小金城跡土塁は消えて宅地が続く


評)
人の建設と破壊は延々と限りなく続く。いつまでだろうか。


寸言
 

 

バックナンバー