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(2021年3月) < *印 旧仮名遣い > |
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八木 康子(HP運営委員)
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秀作 |
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○ |
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はな |
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ワイパーが吹雪分ければ遠くより飛び込んで来る信号の赤 雪解けて野いちごの若葉少し見ゆ去年の硬き実残るあわいに
耳遠き友との会話は久しぶり話したいこと半分にする |
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評)
1首目、映像を見ているようなスピード感が、力むことなく切り取られている。2首目、初春の息吹を見逃さなかった作者の胸に、すっとこのまま浮かび上がってきたような心地よさを感じる。3首目、作者の人となりが素直に伝わってくる。 |
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○ |
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中野 由紀子 |
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真夜中の土砂降り雨は屋根叩く小太鼓のばちフォルテッシモに ハナアブが小菊の上でホバリング花を選るのか天敵チェックか |
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評)
耳や目を存分に働かせて心地よい緊張感があり、言葉選びも若さならではの自在な軽やかさがいい。 |
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○ |
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山水 文絵 |
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行かねばとただそれのみに出で立ちぬ白衣携え石巻市へ 大津波に家を流されし被災者に「お薬手帳は」と問いてしまいき |
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評)
日本では放映されなかった部分もあったと聞く、あの3・11の現場に立ち働いた記憶は、昨日のことのように鮮明に蘇ってくるのだろう。 |
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○ |
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吉野 純香 |
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母を待つ廊下に積もる長い息コロナで付添い禁止になって 新しい心理士さんと向かい合う私の深い森へようこそ |
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評)
1首目の「長い息」は他の言い方がありそうで、やはりこう言うしかない臨場感をはらんだ表現と思う。2首目、下の句への展開が小気味よい。 |
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○ |
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大村 繁樹 |
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溶けて凍り溶けて凍りし土手の雪いつしか草の芽は萌え出でぬ 葦原は枯色なれど日のきらめく川波の底にはやも角ぐむ |
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評)
冷たい空気と共に『早春譜』のメロディが聞こえてきそうな連作。丁寧な写生に春を待ち望む気持ちが表われている。 |
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○ |
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菫 |
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黄昏の野営地に着きコッヘルにラーメン煮れば尾根に月出ず 眩しさに夜半目覚めたり満月が二人の顔をくまなく照らす |
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評)
キャンプの1コマ1コマがくっきりとして私にはまぶしい連作。 |
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○ |
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紅葉 |
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テレワークをしている間にマフラーも薄手になりぬ二月もみそか 国賓のようにコロナのワクチンが空港に着く安堵となるや |
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評)
1首目、コロナ禍の日々もあるがままに受け止めて、フットワーク軽く柔軟にやり過ごす姿勢が作者らしい。2首目は誰もが目にしている映像で、初句の比喩は読者から「まさに!」の声が聞こえてきそう。 |
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○ |
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夢子 |
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うきうきと息子と眺めしテムズ川よもや三年後に逝くとは ローレライの人魚の像と肩を組む息子の後ろをライン河ゆく |
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評)
1首目の下の句は何とも衝撃的。作者には昨日のことのように鮮明だろうが、このように詠める日を迎えるまでの気の遠くなるほどの年月を思う。 |
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○ |
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大井 美弥子 |
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幼き日の我の姿を遠き目に祖父は昨日と同じ話す よくできた孫でありたし哀れみも苛立つ心も持ちたくはない |
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評)
こんなにもお祖父さんを思いやる心の篤い作者、それもお祖父さんの人徳故だろうと思いつつ。「亡き祖母を思い出せずと言いし祖父俺はボケたと泣き笑いする」にも胸を打たれる。 |
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佳作
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○ |
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清水 織恵 |
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春の空に羽虫一匹飛んできて図書館の窓キャンバスになる |
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評)
さらりと切り取って、ただただ若さがまぶしい。 |
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○ |
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時雨紫 |
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尺八の「春の海」聴く夫誘い脳の運動とあやとりをする あやとりに梯子作りて取り方を夫の工夫す冬陽射す午後 |
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評)
ご主人が作者の声掛けに応じてあやとりをするとは、何と素敵なご夫婦かと感嘆あるのみ。 |
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○ |
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黒川 泰雄 |
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故郷にこれが最期の実家かな枯れた桜がすべてを語る 海の底砂にもぐりて生きるよう今日も静かにスマホ見て寝る |
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評)
気持ちいいほどに飾らない人柄が滲む。淡々と詠んでいるが、ここに来るまでには1冊の小説にもなるような人生が横たわっているのではないだろうか。 |
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○ |
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原田 好美 |
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義妹よりラインで届く母の顔会えずごめんね元気でいてね 事故に遭い亡くなりし父に弟と誓いき母に笑顔もどすと |
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評)
1首目、コロナ禍中、素直な表現で多くの共感を呼ぶ歌と思う。2首目からはその背景が伝わって胸がふさがれる。 |
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○ |
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鮫島 洋二郎 * |
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たらちねの母の菜つ葉の一夜漬け何は無くとも炊き立てご飯 |
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評)
日本人の原点というべきか、ホッとしてやがてジーンとする歌。 |
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○ |
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源漫 |
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終業のベル高鳴れば校庭の銀杏黄葉を散らす北風 |
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評)
言葉を大切にして苦心した足跡は尊く、今後に繋がるものと思う。 |
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○ |
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はずき |
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コロナ禍に元気戻りつワイキキに我がRHセンター追い風送る |
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評)
コロナ禍でも、何とかお客様に喜んでもらおうと知恵を絞り、もてなそうと心をこめる熱気があふれている。 |
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○ |
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はなえ |
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この人の瞳の光は輝ける心の故かと筆止めて見る |
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評)
様々な思いを抱えながらも、キャンバスに向かうひとときが何よりの至福の時だと伝わって来る。打ち込めるものを持つことの大切さを思う。 |
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○ |
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鈴木 英一 |
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コロナ禍のパンデミックに思い切る憧憬のスペイン遠ざかりしと |
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評)
同じような思いを抱いているだろう多くの人の代弁となっている。 |
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○ |
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上野 滋 |
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バロックの調べながれて日が昇る朝のジョギング好日の予感 |
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評)
悠々自適、健康にも恵まれた日々の暮らしぶりが過不足なく詠まれている。 |
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● |
寸言 |
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まさかコロナ禍がここまで膠着状態にも似た様相を呈するとは、と思いながら、様々な煩わしさを抱えての一年と数か月を迎えようとしている今、改めて、日常生活の一部として歌を<読む・詠む>というささやかな営みに、こんなに支えられているものかと感動しています。これからも一歩一歩共に学んでまいりましょう。 |
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