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(2023年6月) < *印 旧仮名遣い > |
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小田 利文(HP運営委員)
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秀作 |
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○ |
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夢 子 |
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君の夢見むとて伏せば仄かにもピカケは薫る闇深き夜に
君逝きて心に空きし穴塞ぐ術などなくてハーブを育てる |
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評)
一首目、ピカケはハワイアンジャスミンとして知られる花で、その芳香には心を落ち着かせる作用がある。和名、茉莉花。心に響く魅力ある作品である。二首目、結句の具体的な描写が一首を生かしている。 |
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○ |
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鈴木 英一 * |
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トラクターは力仕事の田起しに手仕事の田植にとこの田を守る
我が家から近くに見ゆる筑波山凜々しき双峰今朝も確かむ |
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評)
一首目、日々に見かけるトラクターの様子を巧みに詠んでいる。結句の推敲に作者の工夫
が感じられる。二首目、わが家から仰ぐ筑波山への親しみが良く伝ってくる作品となった。 |
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○ |
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はな |
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ちょこちょこと子雀遊ぶ空き地には餌あるだろうか日暮れも近きに
黄ばみたる父の履歴書読み返し歩みたる道をわれも辿りぬ |
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評)
一首目、身近に見かける小さな生き物への作者の温かな眼差しが感じられる作品になっている。二首目、今回の作者の投稿歌の中では、最も作者の思いが込められているように感じられた。「黄ばみたる」という具体的な描写により、訴える力を持つ一首となった。 |
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○ |
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時雨紫 |
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花束の百合の香りを振り撒きて足早にゆく人の背を追う
生花の日六月六日に娘と孫が活けし向日葵わが目に眩し |
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評)
一首目は初稿のまま。日常の中で出会った印象的な一瞬を切り取って、魅力ある作品に仕上がっている。二首目、作者にとっても特別な日である六月六日の出来事を、うまく一首にすることができた。最終稿にはなかったが、「茶花には香りなき花選るべきを紫テッセン仄かなかおり」も魅力ある作品。 |
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○ |
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紅 葉 |
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ひたすらに泳ぐ姿を眺めては我もと思いしかめっちの逝く
銀行に今日の日付を書き込みし時に気づきぬ子の誕生日 |
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評)
一首目、「かめっち」は作者の幼馴染みで泳ぎが得意な子かと初め思ったが、あるいは飼っていた亀の呼び名なのだろうか。それによって「我もと思いし」の持つ意味も変わってくる。一首としては整っているので、関連した連作があると良かったかもしれない。「思ひし」は作者の他の作品の仮名遣いに合わせて「思いし」と直した。二首目、わが子の誕生日も忘れるほどに仕事に追われる毎日なのであろう。共感を覚える読者も多そうだ。 |
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○ |
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廣 * |
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彼方より茅花のうねり寄せ来たり背中へといま吹き抜けるもの
異国よりナヨクサフジは渡り来て現代多摩川の流れ縁取る |
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評)
一首目、茅花は茅の若い花穂の呼び名。ありふれた花の特徴をよく掴んで詠み、読者の感性を刺激する作品となっている。二首目、ナヨクサフジは帰化植物でこの時期紫色の花を咲かせる。作者の植物への知識により、日常見かける光景を歌に詠むことができた。 |
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佳作
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○ |
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はずき |
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参加者は小雨に濡れおり国民も世界の高官も宮様までも
二時間の戴冠式は長かったプリンス五歳のあくび可愛い |
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評)
チャールズ国王の戴冠式をテーマに詠んだ連作中の二首。一首目、初句からの流れがスムーズで、リズミカルな作品に仕上がっている。作者の眼差しがよく感じられる二首目にも惹かれた。 |
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○ |
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原田 好美 |
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葉の上に載るように咲く花筏デイケアの友らと飽かず眺める
大観の「生々流転」に描かれし水の変化に動けなくなる |
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評)
一首目、作者自身に引きつけた内容としたことで、引き締まった印象の歌となった。二首目、横山大観の作品に接したときの様子を下句でありありと描くことに成功した。 |
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○ |
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はるたか |
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美しき象牙のパイプで吸いていしタバコは早く止めてよかった
わが齢を九十五歳と改めて記ししときに驚きにけり |
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評)
一首目、上句から下句への展開の意外性が印象的な一首。二首目、年齢をここまで重ねて詠むことができた、作者ならではの作品となっている。 |
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○ |
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大村 繁樹 * |
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深酒に友を罵りひとり出でし心に浮かぶ観音の微笑み
四十年ぶりに会ひたる病む友と並び拝めり観音菩薩を |
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評)
二首ともに観音菩薩をテーマに、作者自身に引き付けて詠むことに成功している。二首目の方に、作者のより深い思いを感じた。 |
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● |
寸言 |
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今回最終稿までの投稿者は十人とやや寂しい人数だったが、ここに掲載した歌を読むと、秀作から佳作に至るまで読み応えのある作品に仕上がっており、正しく少数精鋭の感がある。日々の生活の中で出会った感動を、飾らずに具体的な描写を心がけて詠んだ歌からは、作者の感動が生き生きと伝わってくる。着実に向上を重ねる皆さんの作品との出会いを、これからも期待したい。
小田 利文(HP運営委員) |
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