作品投稿


今月の秀歌と選評



 (2023年9月) < *印 旧仮名遣い >

清野 八枝(HP運営委員)


 
秀作
 


つくし

今朝われに「いってらっしゃい」と言いし母冷たくなりて横たわりおり
ドレス似合う結婚写真と歌集とを旅立つ母の棺に入れぬ
寂しくて眠れぬ夜は亡き母の歌集を読みて心通わす


評)
階段から落ちて心肺停止となった母の突然の死の悲しみを詠んだ連作。母の遺した「新アララギ」を手掛かりに初めてこのホームページに投稿したという。一連の歌の具体的な描写と飾らぬ表現によって、母を失った衝撃と悲しみが読む者の心に素直に響き、共感を呼ぶ良い作品となった。これからも母をめぐる様々な思いを、また日常の中の心に残る出来事を詠んでいってほしいと思う。
 


時雨紫

最後となる母の家にて見る花火よ我がふるさとの遠くなりゆく
家売れてカーテン外ししガラス窓透けて見ゆるは思春期のわれ


評)
前:母が亡くなり売られることになった実家で最後の夏の花火を見る作者の思いがあふれる。花火を見ながら作者の心に広がって来る寂しさが伝わってくる。
後:カーテンを外した窓から自分の過ごした思春期の日々を思い出す作者。下の句の表現に惹かれた。
 


大村 繁樹 *

臨終の母を親族うからら囲みしとき加越の峰に陽炎立つ見ゆ
曾祖父より代々河口に暮らし来て今や尋ねむ九頭竜川くづりゆう水源


評)
前:母の臨終の時に、まるで別れを告げるかのように山の峰に現れた陽炎の不思議な光景を詠んでいる。
後:自然豊かな河口の地に代々暮らしてきた作者が今こそ山深く分け入り清らかに湧き出る九頭竜川の源を見極めようと心に決める。そのなかに生きその中で暮らした郷里の自然を愛する思いが伝わってくる。
 


はな

雨に濡れ紅鮮やかな秋海棠読経流るる寂光院に
稲穂刈るコンバインの後縦列に並びて烏が落ち穂啄む


評)
前:雨に濡れた秋海棠の花の色が美しく、尼寺である寂光院に流れる読経の声が、平家物語や建礼門院を思い出させしみじみとした情趣を感じさせる。
後:烏が人間の暮らしを利用して賢く餌を得る、面白い光景を上手く表現している。これも秋の風景の一つであろう。
 


原田 好美

山頂に近き岩肌赤茶けて目を凝らし見る今朝の夏富士
車椅子に見上ぐるヤマモモ木に登り赤き実食みし幼き日憶う


評)
前:早朝の赤富士とは違う岩肌の様子に驚いた作者。昨今の荒々しい異常気象と関わりがあるのだろうか。
後:郷里の四国で幼い頃からヤマモモの甘酸っぱい実に親しんでいた作者は、今遠く離れた地で、車椅子から見上げるヤマモモに幼い頃を懐かしく思い出す。
 


鈴木 英一

夏休みの工作のヒントを科学館に探す親子の真剣な顔
孫詩乃の弾くグリーグのピアノ曲入賞演奏会にうから聴き入る


評)
前:誰しも経験のある、夏休みの宿題の仕上げに苦労する親子の、切羽詰まった様子があたたかく描かれて共感を呼ぶ。
後:初稿に比べると焦点がくっきりとして会場の様子が浮かび、孫娘の弾く見事なピアノ曲が聞こえるようだ。 作者や家族の喜びが読む者に伝わってくる。
 


夢子

宇宙人やAIロボットに会えるだろうか私が百歳になる二千三十四年
あまりにも面白そうな未来図に生きながらえんとエアロバイク漕ぐ


評)
前:百歳になった自分の会う宇宙人や未来のAIロボットを思い描く作者の未来への意欲が素晴らしい。未来を楽しみにしている明るくて積極的な心の持ち主である。
後:夢子さんの面目躍如の感がある。好奇心に満ちて未来に向き合うその心意気に圧倒され励まされる。
 

佳作



はるたか

歳だから諦めようと思うこと次々増えてとめどもあらず
世話をかけただけの私を夫と呼び最期を看取りてくるる我が妻


評)
前:高齢となり諦めようと思わざるを得ないことが増えてくる現実を淡々と詠んでいるが、どうにも仕方のない切なさが伝わってきて共感を呼ぶ。
後:上の句の謙虚な表現に心打たれた。妻への深い感謝の思いが素直に詠みあげられて心に響く。
 


はずき

2)九十の姉には最後となるやもと思い膨らむ三家族の旅
5)四姉妹みな健康に恵まれて日本とラインで楽しむ旅行プラン


評)
九十歳になる姉のあるいは最後となる楽しい旅のプランを考える三家族である。四人の姉妹が健康で、日本とハワイからラインで旅行プランを相談するとは、何ともお幸せな家族であろう。楽しいご旅行を祈る。
 


紅 葉

指示された文献の海寝違えたような痛みの今朝は残れり
無造作にハイビスカスのこぼれ落つるいつもと違う道を辿りぬ


評)
前:調べ物に没頭して首回りが痛むのだろうか。上の句と下の句のつながりが舌足らずで意味がよく伝わらず、 残念である。
後:下の句は新しい展開を期待させるが、上の句の花の表現が大雑把で、心に響かない。作者は古典文法はきちんと身に付いているのだから、読む者に伝わる表現の工夫を学べば、良い歌が詠めるはずである。改稿を提出して具体的に学んでほしい、と、もどかしく思う。忙しいのだと思うが、頑張ってほしい。
 
 
寸言

 今年もまた異常気象による自然災害が世界中を襲い、地上では、ロシアによるウクライナ侵攻がいまだに続いています。世界中の人々が不安な思いで日々を過ごしているのではとニュースを見るたびに胸が痛みます。今年の夏はまた特別な猛暑でしたので、コロナやインフルエンザと相俟って体調を崩した方もいらしたのでは、と思います。いつもの方々何人かの投稿がなく、少し寂しく感じました。投稿された方々はそれぞれ改稿のたびによく工夫されたことが伝わり担当者として嬉しく思いました。皆さん、どうぞお体を大切にされて次回も良い歌をお寄せください。楽しみにしています。
           清野 八枝(HP運営委員)

 
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