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(2024年5月) < *印 旧仮名遣い > |
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八木 康子(HP運営委員)
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秀作 |
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○ |
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時雨紫 |
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懐紙にて折りたる兜を被らせし柏餅の士は勇み立つごと
ウクライナのドキュメンタリーは急きたてる茶筅振る我に「何もせぬ気か」 |
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評) 一首目は「炉塞ぎの茶室に巡る春の風弾む心に柄杓の軽し」から始まる一連にあって、いかにも季節感にあふれ、懐かしさを誘われる。
二首目。とはいえ、世界情勢は先の見えない混迷の中にあり、厳しい下の句は読者にも迫るものがある。このサイトにはなかなか登場しない貴重な時事詠で、はっとさせられた。 |
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○ |
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原田 好美 |
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半身が不随になりて八年余このまま生きる日々の遥けく 転がって身動きできず家人待つああこの身体ああこの身体 |
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評)
誰にも同じような状況になる可能性があるとは言え、このような大変な日々を、真正面から詠む強靭な精神に頭が下がる。一連の最後の一首「茂り出す青葉の奥に紫木蓮ビロードの如き花を見つめる」も、結句にこもる万感の思いに身が引きしまる。 |
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○ |
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大村 繁樹 * |
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「お願ひします手術を受けて」深々と子は改めし声に頭垂れたり
海の上に浮きゐる雲に入日差す生きつづけむか蹌踉ひつつも |
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評) 思いもかけない病魔に揺れる心に、お子さんからの温かい声掛けがどんなに励ましになり、支えになっているかと胸が熱くなる。と共に、遠い日の奥様との思い出も「切岸に海桐の冬芽膨らみて花に顔寄せし妻の浮かび来」等の作品によりいかに大きな支えになっているかと思う。 |
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○ |
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つくし |
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家路への最後の直線駆け降りて至福の夜景に今宵も会いたし
空も風もすべてが味方と思いいて母の病に気付けざりにし |
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評)
前の歌、子供のころのままのような、純粋で文字通り一直線の熱い心が小気味よく、声援を送りたくなる。二首目は一連最後の歌。まさかと、お母さんの病気に気づけなかった悔恨を詠んで胸を打つ。一連の最初にあった「春雪が庭木を真白に変えし朝聞こえる音は雪
垂
りのみ」からは、また作者の別の一面が垣間見えて心惹かれる。 |
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○ |
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はな |
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川に入り石を探りて鮎捜す捉えし鮎は手にくねり出づ
気に入るまで手帳あれこれ探した春今はスマホでスケジュール管理 器用とは言えぬ月日を過ごし来て珈琲の渋味少し好みに |
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評) 今月は、それぞれに独立した作品で、時々の体験や日常を詠み、作者にこんな一面もあったかと思うと、今後の作品が、ますます楽しみになる。 少し気になった一首目の結句の「出づ」は、広辞苑の「いず」の項目の4番目として認知されていた。「出ず」では「でず」かと、否定形と誤解されかねないための妥協案なのだろう。 |
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佳作
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○ |
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紅葉 |
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お茶の水駅から眺める孔子廟緑青の色と若葉が競う
やるべきと言われて久し自己を知る「ジョハリの窓」についに出会いぬ |
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評)
一首目。ようやく待ち望んでいた春が来たことを、力まず詠んでいる。孔子廟は、タイムスリップしたかと惑うほど異世界の雰囲気で懐かしい。蛇足ながら、緑青は銅の表面の錆で、現在では「実はほとんど無害」とも知った。二首目の「「ジョハリの窓」は「他人は自分をどう捉えているのか」という<気づき>を通して、自己分析を深める企業内コミュニケーションの促進や能力開発・ツールの一つということも、この作品とのご縁で知りえた。 |
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○ |
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はずき |
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料理長にママさんだけの「サンライズ」更けるまで皆歌って踊って オンライン検索に知りしカチャシ踊り両手をひねり笑顔忘れず |
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評)
「サプライズで友の誕生パーティーを企画しようと娘のアイデア」から始まる一連から。今月も元気いっぱいの作者にお目にかかれた。モンスーンの湿っぽい国に住んでいるせいとばかりは言えない私にしても、とにもかくにもうらやましい。 |
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○ |
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鈴木 英一 * |
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芳香を放つ三椏咲き揃ひ林の中の谷埋め尽くす この四月二人の孫も中学と高校に入りて自が道めざす |
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評)
一首目。三椏は、紙幣などの原料として、かつてはあちこちの山中に植えられたという。それが放置されて、このような情景が残ったところもあるのかと思った。二首目も、お孫さんに向ける温かいまなざしが心地よい。共に、素通りすることなく、歌材とする感性は得難い。 |
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○ |
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夢子 |
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ブラウンに髪を染めれば二十歳若く見えると友は言うけど 二十歳若く見えても足だけはまごうことなく年相応に |
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評)
いつもながら、ハワイの気候風土は、こんなにも住む人を明るく若々しくするものかと、羨望の中、見習っていきたい。 |
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● |
寸言 |
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今月も、皆さんの作品から様々な世界を見せていただき、コロナ下以来の閉じられた日々に新鮮な風を感じる一か月を送ることができました。
全員、短歌が好きで、持って回った修辞などせず、まっすぐ三十一文字に仕上げる作業に勤しんでいることが伝わり、うれしい限りです。
と、共に気にかかるのは、ここ半年ほどの間にお名前の見えなくなった方が数名おられることです。周りの、短歌に興味のありそうな方にお声掛けをしていただけたら、などとも思っています。
八木 康子(HP運営委員) |
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