短歌雑記帳

宮地伸一の「アララギ作品評」


○限りなき思慕も独りの秘密とし独りとなれば酔ひに行くなり    河村盛明

 僕などは歌一首の解釈にその歌の意味内容の要素自体よりも、意味を含めた音の要素−表現そのものの効果を重んじたいけれども、この作者などは、無論内容内容と心がける方なのであろう。この一首にもそういう意図は窺われる。又そこに同情もできるが、これではやはり自意識が過剰で、気どりが目立つのではあるまいか。「限りなき思慕」とは些か甘ったるい表現だし、それを真に「独りの秘密」としたいならば、何も歌にしあげる必要もないと言うことになろう。

○近づけば駅員なりき米を持ちし吾はほとほとしにき巡査かと思ひて    山田新一

 作品価値から言えば、問題とすべき程のものではないが、万葉の歌がこういう形で現代化され昭和の庶民の声となっている点、いわば万葉集の大衆化版ともいうべき所に興味を感じた。(従ってそれ以上のものではない)かように本歌取りをされては、地下の弟上娘子もほとほと(注:“ほとほと”に傍点)あきれてしまうであろう。しかし万葉をこのように生かすのも決してつまらない事ではあるまい。

             昭和二十五年三月号

 (短歌以外の、漢字は新字体に、仮名は新仮名遣いに書き換えました。)



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