岡部光恵の歌
汗ばみてうつ鐘の音はあかときの若葉うるほふみ山にひびく(七月号)
ひとり来し越のみ寺にあかときの杉の夏芽は白くうるほふ(十月号)
句法が順直で、いかにものびのびとした歌いぶりである。この作者はどちらかというと調子を重んずる行き方のように思うが、ものを見る眼もゆるがせにしているわけではない。「杉の夏芽は白くうるほふ」の感覚は鋭い。そして二首ともに僧侶としてのつつましい感情が底に流れているようだ。宗教的感情というものはなかなか写実的表現の上に乗りにくいものであろうが、この作者にはそれが期待できるような気がする。
経よみしのどいたみつつひとり覚む潮のにほひの入るあかときに(七月号)
おとなしい詠風だが、一二句の把握にはやはり独自のものがある。
経よみつつ小木の岬をこぎゆけば水雲(もづく)とりゐる舟に行きあふ(十月号)
あをあをと海苔の芽なびく岩つたひ仏像洗ふ潮汲みにけり(十一月号)
これらは僧として修業中の体験を詠んだものであろうから、それだけでも特殊であり、どことなく現代離れしているような所もある。しかし句法はごく自然で朗々とした調子には心引かれる。
昭和三十七年一月号
(漢字は新字体に、仮名は新仮名遣いに書き換えました。)
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