七月号作品評 其一 生井武司 宮地伸一 (五)
児島の海にやがて沈まむハレー彗星ベッドに見つつ再び眠る 松井 諭三
[宮地] 感の深い歌で特に上の句がいい。 固有名詞が利いている。しかしせっかくのハレー彗星も日本でははっきり見えず、こういう歌しか詠めなかったのは、残念な気もする。
[生井] めったにない時の歌材に病身ながら積極的に取り組んでいて好感を持つ。下の句に哀感があるが、上の句に対しやや弱い感じがしないでもない。
弟子なりしと言へる一人もやうやくにその欠点を示しはじめぬ 浅井 俊治
[宮地] 七月集其一全体のなかでも注意すべき作品である。具体的な事は一切避けて核心だけつかんでいる。「やうやくにその欠点を示しはじめ」たその人に、作者は共感している部分があるのだろう。
[生井] 一人の人間の成熟期に、師の欠点を示しはじめるという事は大変な事である。前評のように私も思う。感鋭く大局的な捉え方をしている。
(続く)
(昭和61年9月号)
(漢字は新字体に、仮名は新仮名遣いに書き換えました。)
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