七月号作品評 其一 生井武司 宮地伸一 (四)
東京にない杖ロンドンより届け来る軽く握りよいロンドンの杖 友広 保一
[生井] 何でもある日本かと思うとそうではなかった。作者の喜びが脈打っている。
[宮地] 軽いが、口語をよく生かした歌である。
道のべの葱のこぼせる花踏みて楽しく歩む咳減りし今朝は 弘田 義定
[宮地] 上の句はなかなかいいところを捉えているが、「楽しく歩む」は安易ではあるまいか。次の歌の「嬬と二人の稀なる歩みに」とあるのと同時の作とすれば「妻と歩めり」などと言うほうがいいと思われる。
[生井] 上の句は「道のべのうまらのうれにはほ豆の」を思わせるようなところがあるが、都市郊外の葱畑か。写実はやはり美しい。結句も年齢から来る思いが出ている。四句は前評の通りと思う。次の歌の句との重複を怖れたとすれば、その必要はないのではあるまいか。
(続く)
(昭和61年9月号)
(漢字は新字体に、仮名は新仮名遣いに書き換えました。)
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