短歌雑記帳

アララギ作品評

 新アララギ11月号選歌後記    吉村 睦人

鳴く虫の声さまざまに夜の更けり盆を送りし後の寂しく

 「更けり」は「更けたり」です。「り」はサ変と四段動詞にしか使えません。「更け」は下二段活用。「り」と「たり」は同じ意味です。この歌倒置法にしない方が「寂し」さがより出るでしょう。「盆送りの後の寂しく鳴く虫の声さまざまに夜の更けてゆく」。

祖母と来て釈尊像に甘茶そそぐ花祭の日の国分寺にて

 この歌も倒置しています。倒置法は大事なものを後にする為にするのです。「花祭の日の国分寺に祖母と来て釈尊像に甘茶をそそぐ」。この歌で一番大事なのは「甘茶をそそぐ」でしょう。

院内はエレベーターに頼らず階段にて足腰をひそかに鍛へゐましき

 字余りにしてまで「ひそかに」が必要ですか。人前でやっていたらよくないのですか。「院内では・・・・・頼らずに・・・・・足腰を鍛へいましき」。敬語の「います」は「ゐ」ではありません。

乏しかる視力に縷紅草の紅を詠みし友をしきりに思ふ夏の日

 「縷紅草」は小さな花ですね。この歌も字数を乱して「夏の日」などと取って付けています。「縷紅草」は「夏」咲く花だし「夏」でない時に歌ってもいいでしょう。「・・・・・紅を詠みし友をしきりに思ふ」。

毎日を明るく生きる心願に作歌に生きゐるわれの好運

 「心願」とか「好運」などの漢熟語を使わない方がよいでしょう。「・・・・・生きるが願ひにてその願ひをわれは作歌に託す」。

(平成二十九年十一月号より)



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