短歌雑記帳

アララギ作品評

 2013年1月号選歌後記    三宅 奈緒子

暑き日をポストへ向かふ足下によろよろと吾が影の添ひくる
狭き道をひたすら走り来し吾か幾多の道のありにしものを
                     佐野 翠

 前作は現実のみち、後作は人生のみち、対照をなしている。全体におだやかな老の表白で、気負っていないところがよい。

全国障害者スポーツ大会に吾は来つ半身不随の子に付き添ひて
五十メートル走の優勝メダル掲げつつ子はスタンドの吾に手を振る
                     森田貴志子

 現実を現実として強く押し出すことで読者に感銘を与える好例である。作者の気持が直截に表現されている。

この窓に向きて立ち来し四十五年朝日さす厨を喜びとして
                     東口 雪子

 いかにも明るい一首で、この一連の雰囲気を表現している。しかしそれは夫妻それぞれにおのが世界を大事に持ちつつ共に生きて来られた反映であろう。



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