2013年7月号選歌後記 三宅 奈緒子
胃内視鏡を終へうつうつとバス待つに離る娘らへの思ひ浮びては消ゆ
薬はり替へ夜半目覚めゐて窓に見る半月は低く弱くひかれり
粕谷 美津子
一連始めの歌、自身病んでいる上に娘への断ち難い思いがまつわり、暗い作者の気持が表白されている。後作は暗い心境が夜半の月光に凝縮された形で一連をまとめている。
疑ふを知らずコミュニズムに寄りたりき戦災跡の学生寮にて
ファシズムを支へし農民と父を責めき全学連かぶれに帰省のわれは
北村 良
若者達が我も我もと左翼思想に惹かれて行った一時代の姿を自身の反省としてよくまとめている。こうした青年の迷いと苦悩は、時代の姿として他の文学作品と共に残されてよいものであろう。
酸素飽和度76%に驚きぬよくぞ病院まで耐へて来れり
腋の下に挟みし体温計の滑り落つ支へ得ぬほどかくも痩せしか
藤原 俊彦
病の歌といえば看取られる病人自身か、看護の役に当る家人というのが普通であるが、本作品は医者である作者自身がおのが病状を詠んでおり、それだけに痛ましさが強く感じられる。徒に感傷語を入れず淡々と詠われているのがよい。 |