短歌雑記帳

アララギ作品評

 2013年8月号選歌後記    三宅 奈緒子

桜すら耐へて咲くものを吾も又この身の懈さに耐へむと思ふ
この齢なればと医師はくり返すに何をか言はむ帰り来にけり
                    海輪 小枝子

 病む夫をみとる立場にある妻の一連。その悲痛さが直接その内容を詠っていない上記の第一首にも出ている。第二首の医師の言葉はいかにも冷たいが、そうした言葉を受けた作者の心境も、抑えた表現の中に強く感じられる。

三百万人の命にかへて得し憲法知らぬ世代が改憲を言ふ
戦争にて得しものは憲法のみなるにそれをたやすくかふると言ふか
                    松沢 真澄

 政権が代って俄かに憲法論議が叫ばれる様になった。上記二首は改憲反対の立場で、その内容、表現ともに独自なものはないが、機会ある度にこの考えを表明して行くことは大切と思う。

わが今を生きる外なし湖かぜに心さらして時ながく立つ
「おお来たか」わが夫と同病に逝きし君旧交温めてゐるかも知れず   悼笹原登喜雄氏
                    近藤 淑子

 第一首、病を負う自らの身を歌って切実な一首。下の句に心情、景観ともに写し出している。、第二首、作者の夫君も熱心なアララギ会員であった。同病ということはこの作で初めて知ったが、私自身まで何か慰められる思いがした。



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