短歌雑記帳

アララギ作品評

 2014年4月号 選歌後記    三宅 奈緒子

わが廻りに戦時を共に生きし人少なくなりしに気付き驚く
「赤頭巾」の狼の如く黒き手を牙をのぞかす政治危うし
                    笠原 玲子

 順直に詠われた七首、(集V)それぞれに、共感されるが、上記二首などは現実の今の世の危うさに鋭く触れていて改めて考えさせる。

張りつめゐし心解くるも幾月ぶりか弟の暮らすホーム決りて
このホームに弟住むと仰ぎをれば空に夕星の光増したり
                    佐藤恵美子

 一連それぞれにまとまっているが、病む弟に関わって詠ったものが特に共感される。病む弟が落ち着いて暮らせるホームがやっとみつかり、安堵して帰る作者の姿がよく出ている。

チンパンジーのラッキー逝きしとふこの朝の小さき記事に夫は黙しぬ
若き日のジョーの眼差しそのままかいま新聞に見るたくましき面
                    吉原 怜子

 この作者独自の題材として、夫君がかつて飼育された動物が登場するが、右のチンパンジーもその一つで、ラッキーの死のニュースと夫君の嘆きをめぐって詠われている。単なるニュースというより、夫君の気持にそっての回顧として、自然に表現され、共感を呼ぶ。



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