短歌雑記帳

アララギ作品評

 2014年12月号 選歌後記    三宅 奈緒子

唱へゐし父の姿を眼裏に観音経誦す父の忌の今日
忘れがたき観音経の言葉ひとつ父が唱へゐし「福聚海無量」
悲しみの極みのときはこの経を唱ふべしとぞ父の教へき
                    金野 久子

 宗教を一首として詠むことは中々難しいが、特に仏教の場合などはなじみがうすいだけに、とりつきにくい。この作者の場合は亡き父への思いと重なっていて、それだけに自然に詠われ、その心が無理なく読者につたわる。

山のなだりにべにうすく咲くレンゲショウマ湧く山霧の忽ち覆ふ
老いて尚心占むるは帰国せし娘の未来にて前に進めず
環境に早く慣れよとに説くに夏蝉せはしく鳴きたつるなり
                    粕谷美津子

 作者は青梅市在住で自然に囲まれているだけに、自然詠、また自然の中での心境詠に見るべきものが多い。また家族詠にもみ子への複雑な思いが詠われ、人生苦を感じさせる。しかしこうしたなかで、作歌はやはり作者にとって大きな慰めとなっているのであろう。



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