短歌雑記帳

アララギ作品評

 2014年11月号 選歌後記    三宅 奈緒子

白々とシーツ乾きぬ雲一つなかりし今日の夕暮長く
さまざまの夜ありしかな聞こゆるは風の音のみ一人一つ灯
                    高橋 一子

 前作は現実そのままの率直な詠風であるが、後作になると過去への詠嘆を巧みに織りまぜている。この作者にはこうした複雑な詠風が少なくない。それが成功する場合と、徒らに作品を混乱させる場合とがあるが、そこにこの作者の特色があるともいえよう。

梅雨明くるとき待ちかねしみんみんの初啼き聴けり谷地田の森に
死ぬことが怖くなつたら星を見よその星空も街では見難し
                    前澤 宮内

 前作は現実をそのまま写した詠風で、滞る所がない。結句の固有名詞も利いている。しかし一連後半になると捉え所が内面的になり、結句では求める希望もないかに詠われている。明暗交錯した現実を作者は見ているのであろう。



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