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○ |
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正岡 子規 |
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夕顔の棚つくらんと思へども秋待ちがてぬ我がいのちかも |
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くれなゐの薔薇(うばら)ふふみぬ我が病いやまさるべき時のしるしに |
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○ |
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伊藤 左千夫 |
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あたたかき心こもれるふみ持ちて人思ひ居れば鶯のなく |
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をさなげに声あどけなき鶯をうらなつかしみおり立ちて聞く |
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○ |
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長塚 節 |
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白埴の瓶こそよけれ露ながら朝はつめたき水くみにけり |
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楢の木の枯木のなかに幹白き辛夷はなさき空蒼く闊(ひろ)し |
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○ |
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島木 赤彦 |
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むらぎもの心しづまりて聞くものかわれの子どもの息終るおとを |
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幼きより生みの母親を知らずしていゆくこの子の顔をながめつ |
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○ |
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中村 憲吉 |
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磯を行くひまだに母はあはれなり我が新妻を愛(を)しみたまへり |
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おほけなく涙おちたり生(しょう)ありてあり磯の珠も母と拾へば |
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○ |
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斉藤 茂吉 |
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あかあかと一本の道とほりたりたまきはる我が命なりけり |
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かがやけるひとすぢの道遥けくてかうかうと風は吹きゆきにけり |
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○ |
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土屋 文明 |
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地下道を上り来りて雨のふる薄明の街に時の感じなし |
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ふりいでし雨の中には春雨とは吾にはうとき言葉と思ふ |
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