|
○ |
|
宮地 伸一 |
|
値引きするは今日までと言ふ牛丼を若きにまじりまた食はむとす |
|
日本語を乱すひとつはサ変動詞「愛さず」「通じず」と朝刊に今日も |
|
|
○ |
|
佐々木 忠郎 |
|
傷つきて道に動けぬ雉鳩をいたはり抱きて媼去りゆく |
|
失ひしつれあひを呼ぶ雉鳩かモチの木に来てしきりに啼くも |
|
|
○ |
|
吉村 睦人 |
|
千島艦沈没に一句残したり子規あらばえひめ丸をいかに歌はむ |
|
うつせみは苦しくあれどわが胸に一つ点れるともし火のあり |
|
|
○ |
|
三宅 奈緒子 |
|
生(よ)の哀しみも倦怠も知りロートレック娼館に入りて描き描きし |
|
人々の仮面を剥ぎて描きたり無頼の群れにおのれ生きつつ |
|
|
○ |
|
小谷 稔 |
|
横縞の地層あらはなる崖の仏遠き日玄装も拝みしものを |
|
ふと思ふ自覚し時計を使ふなき暮しとなりて幾年を経し |
|
|
○ |
|
雁部 貞夫 |
|
爆破一瞬画面を覆ふ風と沙歴史なみする愚行を見つむる |
|
何億も金を費やす大使館命かけてタリバンと渡り合ふ一人もなし |
|
|
○ |
|
添田 博彬 |
|
諦めかけし時に告知を受けたるが最も辛かりしとひそかに言ひぬ |
|
またありて体力残れるときの告知に心奮ひたち癒えしとも言ふ |
|
|
○ |
|
石井 登喜夫 |
|
海山をへだてて二つ墓のあり父母を想ひわが子をおもふ |
|
くれなゐのこの花の名をわれは知らずけふも何気なく暮れてゆくのか |
|