作品紹介

若手会員の作品抜粋



(平成13年7月号)


  仙台 佐藤 元気

満月を車窓に清かに眺めつつ我が十字架の鎖に触れる


  東京 長部 美緒

「願ってる」うちはなんにもかなわないガンガン進め自分の足で


  東京 臼井 慶宣

薫る湯にわれ癒されぬ童心に返りて頭に菖蒲巻きたる


  東京 河野 志帆

人生は人それぞれと言いながら社会の波にのみ込まれそう


  埼玉 松川 秀人

万葉集を読むという人気歌手意外に思うその心がけを


  埼玉 藤平 裕美

霧雨に髪をぬらして君が来る両手いっぱいの紫の花


  埼玉 八板 亜樹

あなたからもらった優しさ忘れない今改めて大地へ一歩


  朝霞 松浦 真理子

言葉より私へそそぐ労力を楽しんでいる真夜中のメール


  千葉 渡邉 理紗

太陽の匂いが詰まる洗濯物を老人達はゆっくりと畳む


  千葉 田辺 陽子

あらためてひとりを感じる夕焼けの遠くの月を蹴飛ばしてみる


  大和高田 田中 教子

ことわりのこれもひとつか校庭の桐の大樹に桐の花咲く


  鳥取 石賀 太

春の日に海猫の足跡あまたなる白き浜辺を君と歩みぬ


  京都 下野 雅史

天翔ける夜空の星を見上げをり月よりも遙かに遠くの星を


  兵庫 小泉 政也

学校にバイトに不眠に恋愛に不器用な僕の悩みは尽きず


  倉敷 大前 隆宣

心通う友も職場をついに去り一人残りて新人を迎う


  ニューヨーク 倉田 未歩

どこを見ても白波と青いうねりだけ走れよ走れ私のボート


  スイス 森 良子

スーパーの地下駐車場にバッハ弾く人あり吾の歩調もゆるむ


  さいたま 梅山 里香

「不安」と言ふ汝の強敵がセキ払ひに姿を変へて汝に取りつく

選者の歌


宮地 伸一

幾たびもモチロンと言ひ説明す幼稚園より帰り来し子は

竹乃里歌原本は此処に収まれどいづくに在りや仰臥漫録は



佐々木 忠郎

おもむろに崩れてひとひら散る牡丹みづからの葉にさやりつつ落つ

タンポポの絮に似て咲く唐松草凪ぐ日つづきに十日たのしむ



吉村 睦人

いくらかは幸せになりてゐるならむ父よりわれのわれより吾が子の

道の上にその面影を立たしめて今日われは行く余呉の海べを



三宅 奈緒子

青年の子規あそびきと海のぞむ頂きにその漢詩刻める

石槌山幾重の山をのぼり来ておそき桜藤の花房



小谷 稔

白き藤むらさきの藤先ざきに垂れ咲く道もかなしみを呼ぶ

白楊のごとく素直にすがすがと詠む若者の現れ来ぬか



雁部 貞夫

爆破一瞬画面を覆ふ風と沙歴史なみする愚行を見つむる

何億も金を費やす大使館命かけてタリバンと渡り合ふ一人もなし



石井 登喜夫

けふことに孤独の思ひ雪の中にこぞりかがやく菜の花のいろ

春の雪に濡れて光れる石ひらき雪を花とも斂めまつりぬ


バックナンバー