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○ |
東京 |
宮地 伸一 |
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町興しに憶良の役立つは喜ばむ歌碑十ばかり見巡るけふは |
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「銀(しろがね)も金(くがね)も」の歌刻めるは四箇所もあり見るに疲れぬ |
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○ |
東京 |
佐々木 忠郎 |
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庭の草枯れゆく中に思はざりき濃きくれなゐの水引草の花 |
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口癖に毅然としてと言ふ外相瀋陽事件のときも然りき
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○ |
三鷹 |
三宅 奈緒子 |
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日常の俄かに裂けて夏さなか思はざる無為の日々となりたり |
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こともなく歩みし日月思ふにもいまひと足を震ひつつ出す |
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○ |
東京 |
吉村 睦人 |
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角館に着き真つ先に学法寺の君のみ墓に導かれたり |
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画をもつて歌を導きし百穂と常言ひましし土屋文明 |
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○ |
奈良 |
小谷 稔 |
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王みづからを神より巨き石像に造らしめて今にナイル見下ろす |
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砂漠化の未来を見るごと山なみの襞々はただ流砂のなだれ |
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○ |
東京 |
石井 登喜夫 |
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いつのまにか生命線は伸びてきて手の平のもつとも下に届きぬ |
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味噌汁にカボスの露を落しつつさきはひあれと思ふこのごろ |
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○ |
東京 |
雁部 貞夫 |
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「生活者の真実詠ふ」と誓ひしを忘れざるべしかの夏の日の |
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嗤ふべし憤るべし歎くべし歌よみの善人説など今は神話か |
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○ |
福岡 |
添田 博彬 |
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壇に置く仏のみ顔に母を恋ひし吾を覚えゐて誘ひ下さる |
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ながく願へる心満たされて夕光となりたる狭間の径下りたりき |
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○ |
さいたま |
倉林 美千子 |
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既にして外の面の風は夜(よる)の音己が饒舌に疲れて黙す |
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薄雲のちぎるるまでを見てゐしが帰らむか吾はわが現実に |
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○ |
東京 |
實藤 恒子 |
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絹傘と開きしオーロラの招きつつ堪へたへて来しこの一年(ひととせ)か |
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歩道橋にのぼり来たりて仰ぐ時月の光はわれらをつつむ |
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(以下 H.P担当の編集委員) |
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○ |
四日市 |
大井 力 |
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投げ出せるわが足先に来て止まる翅脈あらはなるやんまがひとつ |
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鎌を下げ再び待伏せの姿勢とる草色の蟷螂が萱の葉蔭に |
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○ |
小山 |
星野 清 |
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はるか遠く北海の光るところまでたひらかに錆色に街はひろがる |
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故意にせよ錯覚にせよこの湖にネッシーを言ひし人はめでたし |
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