|
|
○ |
東 京 |
宮地 伸一 |
|
両手ひろげ飛びおりながら二歳の子宇宙から来たと高らかに言ふ |
|
けさもまた己が子二人を殺す記事見出しのみ見て目をつぶるなり |
|
|
○ |
東 京 |
佐々木 忠郎 |
|
一日一日(ひとひひとひ)を塑像のごとくなりゆくに庭に遊べと手花火たまふ |
|
妻がもつ花火あかりに映ゆる顔ときのまをとめのころの汝なり |
|
|
○ |
三 鷹 |
三宅 奈緒子 |
|
日に明るき浅瀬に今し産卵かしぶきのたちて魚体みだれつ |
|
幸福駅秋のひかりにしづまりて廃線のレールに白き蝶とぶ |
|
|
○ |
東 京 |
吉村 睦人 |
|
おのづから自らの生の記録をば時々刻々と伸ばしつつあり |
|
アメリカの如く軍需に儲けむと自衛隊派遣を企む者ら |
|
|
○ |
奈 良 |
小谷 稔 |
|
水の神を遷しし力よ驕るなかれダム湖の岸の村は地すべり |
|
金剛に雨雲残り葛城は夕映えにほふ空を負ひたり |
|
|
○
|
東 京 |
石井 登喜夫 |
|
言ふ如く杖を持たねばならぬなら竜頭(りゆうとう)のステッキを探してみたし |
|
眼の光失せたりと言はれこだはるかやはりこだはり鏡に向ふ |
|
|
○ |
東 京 |
雁部 貞夫 |
|
茶店(チヤイハナ)に吾が名を呼べる鬚の翁ああ三十八年前のガイド・セイド青年 |
|
ともどもに六十越えてオアシスの村に遇ふ白髪ゆたかになりしこの友 |
|
|
○ |
福 岡 |
添田 博彬 |
|
わがための薬を小分けしつつゐてはかなき思ひに亡き父を恋ふ |
|
医師呼びに走る道日が照り人と草木世界異なるものに見えたり |
|
|
○ |
さいたま |
倉林 美千子 |
|
ケーニッヒ湖の凍らむ頃に訪ひゆかむ犬橇の灯が心を過ぎる |
|
暖炉の火に照りし少年ははや居らず彼にも三十年の月日は過ぎて |
|
|
○ |
東 京 |
實藤 恒子 |
|
夕かげに咲き満つる桜の間(あはひ)より吉野の山に響く法螺貝 |
|
最初にて最後となりしわが安居会桜本坊三十七年まへ |
|
|
(以下 H.P担当の編集委員) |
|
○ |
四日市 |
大井 力 |
|
三割の人馘首して人替へて強くなりたる球団ひとつ |
|
大切なもの崩壊の世を見ぬか呑気なり野球に狂気の人等 |
|
|
○ |
小 山 |
星野 清 |
|
人を選びて天は二物を与ふるとまた思ふ今日のヴァイオリニストに |
|
終近き鮭にかも似て原点を恋ふるわれかもモーツァルト聴く |
|