|
|
○ |
東 京 |
宮地 伸一 |
|
大き地震あらばと常におそれつつ本積む谷間に身をひそめ臥す |
|
この宵も酒一合を店に飲む家には我を待つものもなく |
|
|
○ |
東 京 |
佐々木 忠郎 |
|
焼酎にオンコの紅き実浮かべたる壜一つ美しふるさとの荷に |
|
おのづから散り果てし桜のもみぢ葉を惜しみて掃かず家篭るわれは |
|
|
○ |
三 鷹 |
三宅 奈緒子 |
|
まもり来し恋人のふみ焼かしめていのち終へしか峡(はざま)の村に |
|
つひの宴(うたげ)と杯かかぐるに篁のうへにあたかも月のぼりたり |
|
|
○ |
東 京 |
吉村 睦人 |
|
実のつける多羅葉の枝を折りたれば願ひを記す葉もつきてをり |
|
子の暴力なくなることを願ふありこの願ひ真つ先に叶へ給へよ |
|
|
○ |
奈 良 |
小谷 稔 |
|
濠水のひかり乱さずゆきし舟古墳の森に草をおろしぬ |
|
わが故里もかく滅びむか寺屋敷といふ名をとどめ畑荒れたり |
|
|
○
|
東 京 |
石井 登喜夫 |
|
病み臥してひとつ季節の過ぎたりと思ふ夕暮杖ひき歩む |
|
「死の前の夢の分析」といふ本をさりげなく子は置きて行きたり |
|
|
○ |
東 京 |
雁部 貞夫 |
|
インダスの広き流れにひるむなく筏こぎ来る少年ふたり |
|
がつしりと氷とらふる脚が欲しクレパス一つ辛うじて跳ぶ |
|
|
○ |
福 岡 |
添田 博彬 |
|
声ひそめし言葉が半世紀隔たりて声高にこの国に溢れぬ |
|
夕暗むおどろのなかに薮茗荷は立ち直るらし白き穂の立つ |
|
|
○ |
さいたま |
倉林 美千子 |
|
夜の音は樺(かんば)の奥に棲むものか落葉の上をまろぶ落葉か |
|
手にせしはウリハダカエデ噛みたるはナツハゼの実と便りこもごも |
|
|
○ |
東 京 |
實藤 恒子 |
|
縦横に倒れし木々の薮分けて登り詰めたり山の平ら |
|
開けたる天に明るむ山の平らいづことも分かず遠き街の灯 |
|
|
(以下 H.P担当の編集委員) |
|
○ |
四日市 |
大井 力 |
|
原爆にただれし死骸の浮きし川いま秋の日にただただ青し |
|
被爆地にいまだ謝罪もせぬ国に頼りて繁栄を遂げて来たりぬ |
|
|
○ |
小 山 |
星野 清 |
|
半ばくづれここに残れる鳥居あり何願ひ汝は石を積みしか |
|
かへるでの緑かがやき日の洩れてここに思ふは過ぎし人のこと |
|